一方で、菫は自分のモヤモヤと戦っていた。

(ルナ君とハルさん、一体どんな関係なのかしら……)

あの日、病院で親しげに会話していたのは見間違いじゃない。あの2人はそういう仲なのだろうか。

(わたくし、ずっとルナ君のことが好きでしたのに……)

仲良さそうに勉強する2人を目の前に菫は居たたまれなくなって立ち上がった。

「ちょっとお手洗いに行って来ますわ」

菫は部屋を出てしばらく歩くと、その場にへたり込んだ。

(わたくし……だめだめですわ)

ずっとアプローチしてきたつもりだった。今日の勉強会もそうだ。だが、彼に気がつく素振りはない。

(……でも、こんなところで諦めていられないわ)
 
菫は立ち上がり部屋に戻ろうとした。
 
「あれ、菫ちゃん……?」

部屋に引き返そうとした菫は、丁度部屋を出てきたハルと目が合った。

「ハルさん……どうしたのですか?」

「ちょっとトイレ借りたいんだけど、場所が分からなくて……」

「なら、わたくしが案内しますわ。ついてきてくださる?」

「うん。お願いするよ」

菫はハルを連れて、トイレへ向かって長い廊下を歩き始めた。

2人は、何も話さずに歩いて行く。しかし突然、ハルがその沈黙を破った。

「ねぇ、ボク迷惑じゃなかった?」

ハルの言葉に、菫は驚いて彼女を見た。

「どうして……?」

「だって、初めにボクを見たときすごく怖い顔だったから」

菫はそう指摘され、顔を赤くした。

完璧に動揺を隠していたつもりだったのに、まさか顔に出ていただなんて。

「そんなことありませんわ!」

慌てて否定する菫を見て、ハルは微笑んだ。

「なら、いいんだ」

ハルの優しい返事を聞いて、菫は決まりが悪くなり俯く。

(わたくしったら、みっともないわ)

せっかく自分の家を訪れてくれた大好きなルナの友人に、敵意を見せてしまっていた……。菫は自分で自分を責めた。

(ハルさん、きっといい人だわ。だって、わたくしのこと気にしてくれていたのだもの……。なのにわたくし、何も聞かずに……。このまま、1人で勝手にモヤモヤしてしまってはいけないわ)

そう思い、菫は覚悟を決めてハルに向き直った。

「わたくしもひとつ聞いて良いかしら?」

「ん?良いよ」

「ハルさんは、ルナ君とどういう関係なのですか?」

「ルナとボク……?あぁ」

ハルは事態を察したのか、少し困ったように笑って答える。

「友達だよ」

友達……菫はその言葉を聞いて安堵の溜息をついた。

「もしかして菫ちゃんって、ルナのことが好きなの?」

ハルに尋ねられ、菫は迷わずに答えた。

「ええ。好きですわ。出会ったその日からわたくしは……」

「なら、応援するよ」

思いがけないその言葉に、菫は目を丸くした。

「いいんですの……?」

「うん」

そう言って屈託のない笑顔を見せるハルに、菫は微笑みながら言った。

「……ありがとうございます。ハルさん」

「ハルで良いよ、菫ちゃん」

「ええ。……わたくしも菫でいいですわ」

「うん!……菫、ところでトイレはどこ……?」

「あ、こっちですわ!」

菫は少し慌てながら、ハルをトイレへ案内した。

しかし、心の中は先ほどよりずっと穏やかだった。