翔北高校グラウンド。そこではサッカー部が近隣高校との練習試合を行っていた。
「行け!黒崎!」
翔北高校サッカー部、背番号2番の黒崎ルナは、仲間からパスを受け取ると、相手のディフェンスを次々にくぐり抜けて、ゴール前に出る。
(いける……!)
点が取れると確信して放った渾身のシュートは、見事に相手ゴールに突き刺さった。
「やった!」
ルナがガッツポーズを決めると、仲間から歓声が上がった。
その時、ちょうど試合終了のホイッスルが鳴り響く。
両チームがグラウンドの中央に集まり、挨拶をして、それぞれのベンチに戻っていく。
駆け足でベンチに戻るルナの肩を、キャプテンマークを着けたキーパーの選手が、笑顔でポンと叩いた。
「ナイスだったぞ、ルナ。リベロにも慣れてきたな」
彼は、ルナの親友の花里景太。2年生にしてサッカー部キャプテンを任されている強豪選手だ。ポジションはゴールキーパーで、高校入学以来無失点記録が続いている。
長身で甘い顔立ちに加え、大らかな性格であるため、男子の友人ももちろん多いが、何より女子が放っておかない。少々抜けているところもあるが、それもみんなに愛されている理由の1つだ。
「景太こそ、今日も無失点だったじゃないか。すごいよ」
「うん、まぁな」
ルナの素直な褒め言葉に、景太は照れ笑いを浮かべる。
ルナと景太がベンチに戻ると、ベンチで記録を付けていた栗色のポニーテールの女子生徒が、立ち上がって2人にタオルを手渡した。
彼女は、サッカー部マネージャーの雨宮百合。景太の幼なじみで、ルナの友人でもある。景太とは対照的にしっかり者で、面倒見が良い。
「はい、2人とも。おつかれさま」
「さんきゅ、百合」
「ありがとう、雨宮さん」
ルナが微笑みながら礼を言うと、百合は明るい顔で、
「黒崎君、今日ナイスシュートだったね!」
と、ルナに言った。
「うん、景太と雨宮さんが練習付き合ってくれたお陰だよ」
ルナは照れ臭そうに頬を掻きながら、百合に頷く。
「それでもすごいよ!もともとディフェンス専門だったのに、春休みですごく伸びたね」
2人のやり取りを見ていた景太が、百合の顔を覗き込みながら尋ねた。
「なぁ、俺は?」
期待の込められた眼差しを向ける景太に対して百合は真顔になって答える。
「景太はいつも通りでしょ」
「えー……」
不服そうに唇を尖らせる景太を見て、ルナは笑った。
黒崎ルナ。彼は翔北高校2年生でサッカー部員。どこにでも居る普通の男子高校生。
……ではない。
彼の正体は、悪魔だ。
ルナが魔界から現世の日本にやって来て、わざわざ人間のふりをしているのには訳がある。
それは……日本で修行している大天使の娘を殺すためだ。
人間に不幸を与える悪魔の仕事がどうしても苦手だったルナは、悪魔として劣等生だった。
その結果、ルナの1日の成果は良くて一桁。まだスクールに通っている弟にも劣っている。
そうしているうちに、悪魔王の父から悪魔としての自覚が足りないと冷酷に告げられ、大天使の娘を殺すまで家に帰ることができなくなってしまったのだ。
しかし、それらしい天使も見つからず、殺すことにも気乗りせず、ぐずぐずしていたら1年が経過してしまった。
(魔界のみんなも、もう僕のことなんて忘れてるかもな……)
憂鬱なことを思い出してしまい、ルナは思わず溜息をついた。
「ルナ、どうかしたのか?」
景太が心配そうにこちらを見る。
「ううん、何でもない」
「ならいいけど……ほら、早く着替えて帰ろうぜ。今日3人でラーメン食べに行く約束だろ」
「そうだった!」
ルナは慌てて頷き、景太と共に部室に向かった。
(案外帰らなくてもいいかもしれないな)
そんな考えがルナの頭をよぎった。
「行け!黒崎!」
翔北高校サッカー部、背番号2番の黒崎ルナは、仲間からパスを受け取ると、相手のディフェンスを次々にくぐり抜けて、ゴール前に出る。
(いける……!)
点が取れると確信して放った渾身のシュートは、見事に相手ゴールに突き刺さった。
「やった!」
ルナがガッツポーズを決めると、仲間から歓声が上がった。
その時、ちょうど試合終了のホイッスルが鳴り響く。
両チームがグラウンドの中央に集まり、挨拶をして、それぞれのベンチに戻っていく。
駆け足でベンチに戻るルナの肩を、キャプテンマークを着けたキーパーの選手が、笑顔でポンと叩いた。
「ナイスだったぞ、ルナ。リベロにも慣れてきたな」
彼は、ルナの親友の花里景太。2年生にしてサッカー部キャプテンを任されている強豪選手だ。ポジションはゴールキーパーで、高校入学以来無失点記録が続いている。
長身で甘い顔立ちに加え、大らかな性格であるため、男子の友人ももちろん多いが、何より女子が放っておかない。少々抜けているところもあるが、それもみんなに愛されている理由の1つだ。
「景太こそ、今日も無失点だったじゃないか。すごいよ」
「うん、まぁな」
ルナの素直な褒め言葉に、景太は照れ笑いを浮かべる。
ルナと景太がベンチに戻ると、ベンチで記録を付けていた栗色のポニーテールの女子生徒が、立ち上がって2人にタオルを手渡した。
彼女は、サッカー部マネージャーの雨宮百合。景太の幼なじみで、ルナの友人でもある。景太とは対照的にしっかり者で、面倒見が良い。
「はい、2人とも。おつかれさま」
「さんきゅ、百合」
「ありがとう、雨宮さん」
ルナが微笑みながら礼を言うと、百合は明るい顔で、
「黒崎君、今日ナイスシュートだったね!」
と、ルナに言った。
「うん、景太と雨宮さんが練習付き合ってくれたお陰だよ」
ルナは照れ臭そうに頬を掻きながら、百合に頷く。
「それでもすごいよ!もともとディフェンス専門だったのに、春休みですごく伸びたね」
2人のやり取りを見ていた景太が、百合の顔を覗き込みながら尋ねた。
「なぁ、俺は?」
期待の込められた眼差しを向ける景太に対して百合は真顔になって答える。
「景太はいつも通りでしょ」
「えー……」
不服そうに唇を尖らせる景太を見て、ルナは笑った。
黒崎ルナ。彼は翔北高校2年生でサッカー部員。どこにでも居る普通の男子高校生。
……ではない。
彼の正体は、悪魔だ。
ルナが魔界から現世の日本にやって来て、わざわざ人間のふりをしているのには訳がある。
それは……日本で修行している大天使の娘を殺すためだ。
人間に不幸を与える悪魔の仕事がどうしても苦手だったルナは、悪魔として劣等生だった。
その結果、ルナの1日の成果は良くて一桁。まだスクールに通っている弟にも劣っている。
そうしているうちに、悪魔王の父から悪魔としての自覚が足りないと冷酷に告げられ、大天使の娘を殺すまで家に帰ることができなくなってしまったのだ。
しかし、それらしい天使も見つからず、殺すことにも気乗りせず、ぐずぐずしていたら1年が経過してしまった。
(魔界のみんなも、もう僕のことなんて忘れてるかもな……)
憂鬱なことを思い出してしまい、ルナは思わず溜息をついた。
「ルナ、どうかしたのか?」
景太が心配そうにこちらを見る。
「ううん、何でもない」
「ならいいけど……ほら、早く着替えて帰ろうぜ。今日3人でラーメン食べに行く約束だろ」
「そうだった!」
ルナは慌てて頷き、景太と共に部室に向かった。
(案外帰らなくてもいいかもしれないな)
そんな考えがルナの頭をよぎった。