「俺の方こそよろしく」
耳元で囁かれて頭までカッカと熱くなってくるのを感じる。

これ以上くっついていたら本当に溶けてしまいそうで、燐音はそっと身を離した。
少し前まで友達同士だった自分たちが、今は恋人になっている。

それが不思議で仕方なくい。
「今度はちゃんとしたキスがしたい」

真正面からそう言われて燐音は「あ、うっ」と返答に困って口ごもった。
「嫌ならやめとく」

燐音の慌て具合を拒絶とみなしたのか、詠斗が教室へ戻ろうと背中を向けた。
燐音は咄嗟にその腕を掴んで引き止めていた。

「嫌じゃ……ないよ」
「え? 今なんて?」

聞きながら振り向いた詠斗の顔には意地悪そうな笑みが浮かんでいる。

それを見た燐音はわざと教室へ戻ろうとしたのだと気がついたけれど、「嫌じゃないんだ」と、もう1度勇気を振り絞って言った。

いつも守ってくれている詠斗に少しは自分から歩み寄りたかった。
だから詠斗のちょっとした意地悪を受け入れたのだ。