燐音は詠斗がキスしてきた理由がずっと気になっていた。
考えてドキドキして、眠れない夜を過ごした。
でも今詠斗はそれについて謝罪している。

「それってどういう意味?」
質問する声が震えた。

これ以上聞くべきじゃないと思っていても、聞かずにはいられなかった。
詠斗がどんな気持ちでキスをしたのか。

知りたかった。
「俺、勢いであんなことしたけど、たぶん詠斗は初めてだったよな? 俺なんかが奪って本当に悪かったと思ってる。だから……」
だから、忘れてほしい。

その言葉に燐音は雷に打たれていた。
脳天からつま先へと衝撃が走り、心臓が止まってしまいそうだった。

あのキスに特別な意味はなかった?
あれは謝罪しなければならないようなものだった?

ただの、勢いでしたものだった?
次から次へと疑問が浮かんでくるのに、ひとつも声にならなかった。

ただ燐音はその場に立ち尽くして、知らずにボロボロと流れ出てきた涙を止めることもできなかったのだった。