「頂上まで行ったのに僕のために戻ってきてくれたの?」
「あぁ。でも頂上はもうすぐそこだ」

曲がりくねっている山道では頂上が見えないけれど、もう目と鼻の先まで来ていたみたいだ。

「そっか。あの、ありがとう。2度も助けてくれて」
「別に普通だろ。友達が危険な目に遭ってたんだから」

そう言われて嬉しい反面『友達』という言葉にズキリと胸が痛むのを感じた。
詠斗にとっては自分は特別な存在じゃなくて、ただの友達だ。

特別な存在になりたいと思っていれば、秘密を守る約束の時にそう言えばよかたのだから。
そうすれば燐音は断ることはできなかった。

「どうする? 下山するか?」
「ううん。頂上まで登るよ」

詠斗が見た景色を自分も見たい。
そう思い、燐音はまた歩き出したのだった。