上から勢いよく走ってきた詠斗がそのままの勢いで克也の頬を殴り飛ばした。
克也は横に転がり、京介が慌てて立ち上がった。

拘束がとけても燐音はすぐに動くことができず、呆然としてその様子を見つめていた。
詠斗が逃げようとした京介の胸ぐらを掴んで引き寄せ、その頬を思いっきり殴りつけたのだ。

詠斗に一発ずつ殴られたふたりはグッタリとして倒れてしまった。
「燐音、大丈夫か?」

まだ座り込んだままの燐音を助け起こして詠斗が聞く。
燐音は何度もまばたきをして「あ、あぁ」と、呆然としたまま答えた。

こんなことって現実にあるんだ。
まるで夢でも見ているようだった。

「どうして、ここに?」
落ち着いてきて破れた体操着の前をネームバッヂで止めながら燐音は詠斗に聞いた。

京介と克也のふたりはまだ地面で伸びている。

「1度は頂上まで行ったんだ。でも先に歩いてたはずの京介と克也の姿がなくて、なんとなく嫌な予感がしたんだ。あいつら、なんからからないけど燐音を敵視してたし。それで戻ってみたら途中で燐音の悲鳴が聞こえてきてさ……めっちゃ慌てた」