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詠斗を先に行かせた燐音はリュックの中から水筒を取り出して喉を潤した。
カラカラになっていた喉がスッキリして、少しだけ気分がよくなる。

あとどれくらいで頂上に到着するだろう?

途中までは案内板を見ていたけれど、歩くのが苦しくなり始めてからはほとんど見なくなってしまったからわからない。

ふと足元へ視線を落してみると、そこにも詠斗が見つけた白い花が咲いていた。
名前は知らないけれど、山道のあちこちに咲いていて道を彩ってくれている。

「お前はすごくキレイだね」
道を行く人々の目を楽しませているのだと思うと嬉しくなった。

だけどその中には誰かに踏まれて茶色く変色していたり、首が折れたりしているものもある。
景色を見ることなく勢いで登っていく人や、楽しむ余裕がない人だっているんだろう。

自分だってそうだ。
もう足の裏が痛くなってきている。

このまま下山してしまいたい気持ちになるけれど、上で詠斗が待っていると思うとそんな甘えた気持ちも消えていく。