グラウンドで京介に言われた言葉がひっかかっていた。
自分は今まさに詠斗の足を引っ張っているんじゃないかと。

「お、こんなところに花が咲いてる」
詠斗が足元に咲く白くて小さな花に気がついて歩調を緩めた。

ゆっくり歩いて見てみればあちこちに沢山の花が咲いているのがわかった。
「あぁ、気持ちいいなぁ。山の中って空気がキレイな気がする」

詠斗が大きく伸びをして言うので、燐音も同じように伸びをして空気を吸い込んだ。
普段排気ガスにまみれている街の空気とは全然違う。

そうか。
早く頂上に到着することだけが登山じゃないんだ。

こうしてゆっくり歩いて山のことを知ることだって、立派な登山なんだ。
燐音はそう思ってふふっと小さく微笑んだ。

「なにがおかしいんだよ?」
「別に、なにも? ただ、山って本当にキレイだと思っただけ」

先に行ってしまった京介たちはきっと気がついていないだろう。
自分たちが今登っている山の美しさを。

これは歩みが遅い自分と詠斗にだけ与えられた山からのプレゼントである気がして、嬉しくなったのだった。