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それからグラウンドへ戻るとひとりにひとつずつ大きな鈴が手渡されていた。
今から登山が始まるけれど、山にはクマがいて時々姿を見せるのだそうだ。

そんな危険な山に登りたくなんてなかったけえれど燐音はみんなと同じように腰のベルトに鈴を取り付けた。
「いいか? 山に入ったら決して横道にそれたりするんじゃないぞ? ちゃんと登山道を歩けば安心だからな」

先生が注意を聞いている最中、つんつんと背中を突かれて燐音は振り向いた。
いつの間にそこにいたのは京介がジッとこちらを見つめている。

「なにか用事?」
京介とはもう距離を置いているから、なにか言われる筋合いはないと思いつつ、無下にもできずに質問する。

「お前、詠斗の足を引っ張るなよ?」
京介の言葉に燐音はムッと唇を引き結んだ。

なんでそんなことを言われなきゃいけないんだと言い返しそうになり、それも飲み込む。
燐音はただなにも言わず、視線を前へとうつしたのだった。