その反面燐音と詠斗のふたりはぐっすり眠っていたので体力が温存されていた。
一番先に建物内に入ると、その薄暗さに逆にテンションが上がってくる。

「本当にひとつも窓がないな」
灰色の廊下を進みながら詠斗が言う。

廊下の所々に換気扇がついているけれど、窓がないので全体的に閉塞感をすごく感じる。
それから自分たちの部屋番号を見つけて入ってみると、そこはリノリウムの床に二段ベッドが置かれていた。

「すっげぇ! 俺二段ベッドなんて初めてだな」
詠斗が喜んで上も下も覗き込んで確認している。

ただ、部屋にもやっぱり窓がなくて壁の上の方に換気扇がつけられているだけだった。
燐音は壁に近づいて色が違っている部分を指先でなでた。

「なにしてるんだ?」
すぐ後ろに詠斗がやってきて顔を寄せてくるので、とっさに身を離した。

眠っている詠斗とはあんなに近くにいられたのに、起きているとどうしても強く意識してしまって恥ずかしくなる。