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バスの中で詠斗と会話する時間はほとんどなかったものの、幸せな時間を過ごすことができた。
ふたりが目を覚ましたときにバスは施設のすぐそばまで来ていて、その灰色の建物に互いに目を見買わせた。

外から見る限り建物には窓がなくて、まるで牢獄みたいだったからだ。
「すっげー施設」

詠斗が外観だけで疲弊した声を漏らす。
「だね。でも入ってみたら以外と心地いいかもしれないし」

と、燐音がフォローを入れるけれど本心からの言葉じゃなかった。
梅雨時期じゃなくてよかった。

これで雨が振っていたら建物内は湿気がすごいはずだ。
そうしてバスは駐車場に停車したのだった。

バスを下りて順番に並んで待っていると、続々と他のクラスのバスも駐車場に入ってきた。
大型バスが何代も止まると駐車場はすぐにいっぱいだ。

そして施設のグラウンドにA組からD組までの生徒が並ぶと、グラウンドもいっぱいになってしまった。

「これから各自の部屋に荷物を運んでもらう。鍵はドアについているから、鍵を閉めたらグラウンドに集合するように」

先生に言われて生徒たちがゾロゾロと移動を開始する。
長時間の移動でみんな疲れているみたいで、動きは怠慢だ。