「おぉ、それいいな! 少しはサッパリするんじゃねぇの?」
ふたりは大きな声で笑いながら燐音の前髪をかきあげる……寸前のことだった。

ガラッと音を立てて教室前方の戸が開いた。
その音に驚いた克也が手の力を緩めたので、そのすきに燐音は自分の前髪をもとに戻した。

「なにしてんだお前ら」
教室へ入ってきたのは詠斗だった。

詠斗は入ってきた瞬間3人の様子を確認すると、目を吊り上げて大股に近づいてくる。
「ち、違うんだ。俺たちは別に、なにも」

「そ、そうだよ。一緒に昼を食いに行こうって言ってただけで」
ふたりがしどろもどろになって説明している中、近づいてきた詠斗が床に落ちているメガネに気がついて拾い上げた。

「昼飯に誘ってただけにしては、燐音がひどく怯えてるように見えるけれど?」
そう言われて初めて自分が小刻みに震えていることに気がついた。

力の強い男がこれほどの驚異になるとは、思ってもいないことだったからだ。
「大丈夫か?」

詠斗が優しく声をかけて、メガネを差し出してくれる。
燐音はそれを受け取ってすぐに顔にかけた。