その手が触れる度に心臓が跳ねて今にも止まってしまいそうだというのに、本人は全然気がついていない。

「本当に、もういいからっ!」
勢いよく立ち上がって逃げようと中腰になったところを詠斗が後ろから羽交い締めにしてきた。

「逃げようとしてたのバレバレ」
ふたりで畳に転がって詠斗が大笑いする。

両腕が背中から腹部へかけて回されて詠斗と自分の体臭が混ざり合う。
同じシャンプーの匂い。

同じボディーソープの匂い。
男子校に備え付けられていたものを使ったのだから当然のことだったけれど、そのどれもに燐音の体温は上昇していく。

「冗談はよせって! 離れろよ!」
じたばたともがくけれど詠斗の力に適うわけがない。

組み敷かれてしまえばそのまま動けなくなってしまう。
だけどその前に心臓が破裂してしまいそうだった。

燐音が勢いよく体をひねると詠斗の両腕に力が弱まった。
そのすきを見計らい、燐音は詠斗の体を突き飛ばす。