自分は一足先に着替えを済ませていたから、詠斗の着替えのことをすっかり失念していた。
「じゃ、じゃあ僕は外に出てるから」

そう言って立ち上がった時、上半身裸の詠斗がドアの前に立ちふさがった。
思っていた通りしっかりと腹筋が浮き出している。

その肉代美に心臓がドクドクと高鳴り始める。
「それよりさ、もしかしてそのボサボサ頭のまま学校に行く気?」

「え……あ、そうだけど?」
燐音の髪の毛は昨日乾かさないまま寝て整えてもいない。

詠斗は朝食の前に丁寧にブラッシングしていたから、もう寝癖は直っていた。
「それじゃダメじゃん。昨日からずっと気になってたんだよなぁ。はい、そこ座って」

詠斗に強引にテーブルの前に座らされて、目の前に鏡が置かれる。
そして寝癖直しやヘアセットの道具が整えられた。

「ぼ、僕はこれでいいんだよ」
「ダメだって。いくら顔を隠したいって言っても寝癖は違うだろ?」

「いいんだってば! そんなことより、早く制服に着替えないと時間がなくなるよ!?」
人の髪の毛をペタペタと触ってくる詠斗に反発するが、詠斗はやめようとしない。