もともと秘密にするつもりなどなかったらどうしよう。
予感は嫌な方へと流れていきシャワーで汗を流したばかりだというのに、冷や汗が吹き出してきた。

「俺の友達になってくれないか?」
「へ?」
予想外の言葉に燐音はキョトンとしてしまう。

「だから、俺の友達になってよ。いいだろ?」
「そ、それは、いいけど……」

でも待てよ?
相手はすでに人気者だとわかっている詠斗だ。

一緒にいることで無駄に注目を浴びてしまうんじゃないか?
そんな不安が胸によぎった。

けれどそんな不安は詠斗には全然通じていないようでニカッと笑って白い歯を見せると「じゃ、よろしく!」とまた手を差し出してきた。

燐音は、今度はその手を握りかどうか迷った。
この手を握り返してしまうと計画していた霞のような高校生活を送ることは不可能なんじゃないかと思った。

でも……。
目の前の詠斗を見ているとだんだんとそんな気持ちが薄れていく。

秘密を守ってくれなければ困るし、断ったら余計に注目されてしまう。
燐音は覚悟を決めて詠斗の手を握り返したのだった。