燐音は自分の頬を思いっきり両手でパチンッと叩いたのだった。
そう。

僕は可愛いを封印した。
そのためならキモイと言われてもいいと思うほど、嫌だったから。

これは絶対に誰にもバレてはいけない真実。
それなのに……。

「え?」
「あ?」

シャワーを浴びて脱衣所へと通じるすりガラスの戸を開けた瞬間のことだった。
先の『え?』が燐音の声で、後から聞こえた『あ?』が詠斗のものだった。

風呂から出たばかりのあられのない姿の燐音の前に、なぜか詠斗が立っていて、呆然とした顔で見つめている。
「な……なんで?」

燐音の声が震える。
早く体を隠したいけれど、驚きすぎてタオルを置いている棚に手を伸ばすことすらできない状態で。

「嘘。お前その顔」
詠斗の顔がみるみる内に赤くなり、右手で口元を覆った。

燐音はようやくタオルに手を伸ばして自分の体を隠すと真っ赤になりながら「出てけ!」と、叫んだのだった。