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「まぁ、寮の中でも教室でも一緒にいられるしさ」
部屋を出る準備を進めながら詠斗が言う。

「うん……」
燐音はさっきから上の空だ。

せっかく詠斗と心の距離が近くなったのに、今度は体の距離が離れてしまう。
そう思うとやっぱり少しさみしかった。

「そんな顔すんなって。じゃ、俺はもう行くから」
少ない荷物はすぐにまとめ終わってしまい、詠斗は立ち上がった。

ドアの前に立つ詠斗に近づいて、燐音はそっと背伸びをする。
そして初めて自分からチュッと小さなキスをした。

詠斗が驚いた表情で燐音を見つめて、それから「それじゃ」と、短く言って部屋を出たのだった。
バタンと音を立てて湿られたドアの前で燐音はずるずると座り込む。

「勇気を出してキスをしたのに、あまりにあっさりしてないか?」
抱きしめられたり、詠斗からキスされることを期待していた燐音はそう呟いて小さく笑ったのだった。