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『あんたゲイなんじゃない!?』

先輩から放たれた言葉が何度も頭の中でリピートされて燐音はその日眠ることができなかった。

このまま交際を断り続けていれば、いつかそんな噂がたつときもくるかもしれない。

曖昧で輪郭のない不安を抱えたまま学校へ行くと、いつもどおり明里が駆け寄ってきた。

『ちょっと燐音! あのモデル先輩からの交際も断ったって本当!?』
ズイッと体を寄せて早口に質問されて燐音は呆れ返った。

明里のことだからすでに知っているだろうと思っていたけれど、モデル先輩なんてあだ名がついているとは思っていなかった。

『うん』
『なんで!? どうして!? 燐音は可愛い系でも断ってたよね!? 一体どんなタイプが好きなわけ!?』

矢継ぎ早に質問されている間に片思い中のクラスメートが登校してきて、燐音のすぐとなりを通り過ぎていった。

シャンプーの香りが鼻腔をくすぐり、胸のあたりがギュウッと切なく締め付けられる。
『す……好きになった相手が好みのタイプだよ』

明里を納得させるために使い古された言葉を使う。