それから大きく目を見開くと、自分の手を引っ込めて燐音の顔をマジマジと見つめた。
『今、なんて?』

『ごめんなさい。僕、先輩と付き合うことはできません』
申し訳ない気分になって先輩から視線をそらす。

さっきまで美しかった表情がみるみる歪んでいくのを、見ていられなかった。
『私が告白してるのよ!?』

先輩はきっとよりどりみどりに男と付き合ってきたのだろう。
自分がフラれることなど想定していなかったに違いない。

『こんなのありえない! あんた頭おかしいんじゃないの!?』
悲鳴に近い声で罵倒されて燐音はたじろいだ。

告白を断ったことでここまで取り乱した人を見たのは初めてだった。
『せ、先輩落ち着いてください。僕はただ……』

先輩のことが好みじゃなかっただけで、先輩は十分にキレイだと思います。
そう続けたかったけれど、先輩の次の言葉によってすべてをかき消されていた。

『あんたゲイなんじゃない!?』
それはフラれた先輩の捨て台詞だった。

だけど言われた瞬間燐音の頭の中は真っ白になってなにも反応できなかった。
燐音が立ち尽くしている中、先輩は鼻息荒く帰っていってしまったのだった。