クラスメートと明里のこんなやりとりは日常茶飯事だった。
ふたりでいると茶化されて、冷やかされる。
そんなとき明里はいつも頬を赤く染めて少しだけ嬉しそうな顔をした。

だけどこの日の燐音はそれに気がつくこと無く、クラス内から出ていく1人の男子生徒を目で追いかけた。

その生徒はクラスで1番背が高く、運動神経抜群で友人の多い生徒だった。
最近、妙に彼のことが気になっていた。

初めて芸能人に恋したときとは比にながらいくらい心臓がドキドキして、会えた日は嬉しくて、会えなかった日は落ち込んでしまう。

彼が教室にいるかいないかで、燐音の気持ちが左右されるようになっていた。
『ちょっと燐音、なにぼーっとしてるの?』

明里に声をかけられてハッと我に返り、慌てて笑顔を作る。
明里はずっと近くにいるから、絶対にバレちゃいけない存在だった。

『いや、なんでもないよ』
燐音はすぐにそう答えて、明里とふたりで教室を出たのだった。