「何人かとは付き合った。でも結局長続きはしなかったんだ」
詠斗は早くこの話題を切り上げたいようで、燐音から視線をそらして軽い口調でそう言った。

過去の恋愛なんてなにも関係ないという雰囲気を肌から感じられる。
「僕とは、どうして?」

「どうしてって……燐音は可愛いし、顔を見た瞬間ドキドキした。なんていうか、こいつしかいないって思ったんだよ」

「前にも言ってくれたよね。出会ってすぐ好きになったって」
「そうだよ。ほとんど一目惚れだった」

そう言われて、お風呂以外ではずしたことのない伊達メガネを外した。
前髪をかきあげて顔をあらわにすると、詠斗がまばたきを繰り返した。

「燐音。すごく可愛いよ」
腰に腕を回されて抱き寄せられる。

でも、残念だけれど今はそんな甘い雰囲気になれそうになかった。
「僕の顔がこんなんじゃなかったら、詠斗は僕のことを好きにはならなかった?」

「そんなこと……」
否定しようとする詠斗の顔を真剣に見つめた。