ようやくそれだけ言うと先生が申し訳無さそうに眉を下げて「実はこいつの部屋が雨漏りしててなぁ。ちょっと修理が必要になったんだ。だから、修理が終わるまでの間だけだ」と、説明した。

聞くところによれば1年生はみんな寮の3階を使っているようで、そこで雨漏りが発生。
今日はよく晴れているけれど昨日は1日雨が振ったことで、部屋が水浸しなのだそうだ。

「俺の部屋畳でさ、畳がぐっしょり水吸ってとてもじゃないけど寝れないんだよ」
「……ってことは、畳も入れ替えるまで部屋に戻れないってこと?」

勇気を出して詠斗へそう質問すると、詠斗は渋面を作って「そうなんだよぉ」と何度も頷いてみせた。
雨漏りを修理するだけでなく、畳の入れ替えも必要だとなるとそう簡単にはいかなさそうだ。

燐音は詠斗と先生の顔を交互に見つめた。
せっかく手に入れたひとりだけの城。

先生に懇願して、教師用の休憩室を特別に使わせてもらえることになったのだ。
それが、こんなにも早く崩れ去っていくなんて嫌だ。

それも相手は大人気キラキラ男子だなんて!
喉元まで出かかった言葉が出てくることはなく代わりに「わかりました」とぼそぼそ呟いていたのだった。