こんなに真っ暗なのは初めてだ。
実家にいたころだってここまでの暗闇を経験したことはなかった。

燐音はもともと祖父母の古い家の押し入れに入り込むのが大好きで、暗い場所は平気だった。
だけど、今は恐怖心がどんどん体を侵食していっていた。

「詠斗?」
どうにかドアを開けて廊下を確認する。

廊下には夜でも常夜灯が灯っているはずなのに、それも今日は消えていて本当に真っ暗だ。
廊下の先も手前もなにも見えない。

「なぁ、詠斗? いるんだろ?」
恐る恐る部屋から出て暗闇の中に両手を伸ばす。

少し歩くとすぐに壁が指先にふれた。
ヒヤリとして冷たくて、まるで人を拒絶しているかのような感触に手を引っ込める。

体を回転させて一歩一歩慎重に廊下を進んでいくと、奥の方にぼんやりと光るものを見つけた。
それを見た瞬間とても大きな安堵感が燐音の胸に広がっていった。