「そうかぁ?」
スマホ画面から視線をそらすことなく答える詠斗に、燐音は身を捩る。

「あ、もしかして俺汗臭い? だったら悪い」
部活終わりだからか、ふとそんな心配を口にして左手の力を緩める詠斗。

燐音はそれを見計らって詠斗の膝から下りた。
「別に、汗臭くはないけど……」

と、真っ赤な顔で答える。
むしろ制汗剤の匂いが爽やかで心地よかったとは、言わない。

「それなら遠慮することないな」
詠斗はそう言うとスマホをテーブルに置いて燐音を引き寄せた。

今度は真正面からギュッと抱きしめられる。
「こんなことしてるとクラスメートたちにバレるだろ」

というか、すでにバレている。
人気者の詠斗の噂だからクラスを飛び出して他の学級の生徒たちだって、もう知っているかもしれない。

「別にいいだろ、そのくらい」
詠斗は我関せずな様子でそう言うけれど、燐音からすれば自分まで目立ってしまう可能性がある。