誰も用事なんてないはずだ。
そう思いながらも相手が寮の先生かもしれないと考えると、無視しているわけにもいかない。

「は、はい……」
立ち上がってドアへ向かい、そっと開いてみるとそこには思っていた通り寮の先生が立っていた。

寮を取り仕切っている先生は柔道部の顧問も兼任しているらしくて、その体は服の上からでもわかるほど筋肉質だ。
この人に逆らったら簡単に張り倒されてしまうだろう。

「な、なんですか?」
「おう霞、悪いけどしばらくの間こいつも一緒の部屋にしてやってくれねぇか?」

先生らしくないくだけた口調でそう言った後ろから、1人の男子生徒が顔を出した。
「よ! 霞」

ニカッと笑って見える眩しい白い歯に、明るい髪色。
それはまさしく今日同じクラスになったばかりの日向詠斗だったのだ。

燐音は目をまんまるに見開いてそれから口をパクパクさせた。
「な、な、なんで」