俺はゆっくりと街を一巡りする。
夕陽を受けてオレンジに輝きだす石造りの街。その光景は、まるで絵画のように美しく、心に深く刻まれていく。
武闘会の余韻の残るメインストリートはまだ賑わいを見せていた。まさか優勝者が新郎となって頭上をタキシード着て飛んでるとは、誰も思わないだろう。その状況の滑稽さに、俺は内心で苦笑する。
「この街ともお別れだな……」
俺が感傷的につぶやくと、
「私は、あなたが居てくれたらどこでもいいわ」
と、ドロシーはうれしそうに笑った。その笑顔には、未来への希望が溢れていた。
「あは、それを言うなら、俺もドロシーさえ居てくれたらどこでもいいよ」
「うふふっ!」
満面の笑みのドロシー。夕日を受けて銀髪がキラキラと煌めき、まるで天から舞い降りた天使のように見えた。
見つめ合う二人……。その瞬間、この世界は二人だけになる――――。
ドロシーが目を閉じた。
可愛い新妻のおねだり……。俺はそっとくちびるを重ね、舌をからませる。
すると、ドロシーは一か月間の寂しさをぶつけるように、熱く激しく俺をむさぼってきた。その情熱には、寂しい別離を経た再会の喜びと、これからの人生への期待が込められている。
俺もその想いに応えた。二人の息遣いが激しくなり、心臓の鼓動が高まっていく――――。
カーン! カーン!
教会の鐘が夕刻を告げる。それはまるで二人の結婚を祝福するかのように、いつもより鮮やかに街中に響きわたった。
鐘の音が響く中、俺たちは空高く舞い上がっていく。二人にはもう怖いものなど何もない。ただ、希望に満ちた未来だけが広がっていた。
◇
お姫様抱っこのまま、二人は幸せに包まれながら夕焼け空を飛んで行く――――。
新居についた頃には御嶽山の山肌も色を失い、宵闇が迫ってきていた。二人の新生活の幕開けを祝福しているように、空には鮮やかな宵の明星が輝く。
「奥様、こちらがスイートホームですよ!」
俺は木製のデッキにそっと着地した。辺りには森の香りが立ち、新鮮な空気が二人を包み込む。
「うわぁ! すごい、すごーい!」
ドロシーは目を輝かせて甘い新婚生活の拠点となるログハウスをあちこち眺めた。そして振り返ると池の向こうに聳え立つ御嶽山に圧倒され、大きく両手をあげた。
「素敵~!」
その叫び声は、静寂な森に響き渡る。
小ぢんまりとした木の温もりが感じられる外観、まだ芳しい材木の香り。一人で閉じこもるつもりだった小さなログハウスは、二人の愛の巣になり、俺の目にも輝いて見えた。
俺はドアを開けて、ドロシーを案内する。
「ごめんね、まだ何もないんだ」
まだ生活感のない殺風景な部屋にはベッドとテーブルしかない。
「本当に何もないのね……」
薄暗い部屋を見回すドロシー。
俺は急いで魔法で暖炉に火をともした。炎が揺らめき、部屋に温かな光と影を作り出す。
「私が素敵なお部屋に仕立てちゃってもいい?」
ドロシーの目がキラリと光る。
「もちろん! じゃあ、明日は遠くの街の雑貨屋へ行こう」
俺はドロシーの手を取って引き寄せ、つぶらなブラウンの瞳を見つめた。
じっと見つめあう二人――――。
その瞳に映る自分の姿に、俺はこれからの幸せな日々を予感する。
暖炉の炎に揺れる美しい頬のラインを、俺はそっとなでた。しっとりと柔らかな肌の温もりが、指先から伝わってくる。
こんなに可愛い娘が俺の奥さんになってくれた……。それは俺にとってまだ信じられないことだった。前世ではあれほどあがいたのに彼女もできなかったことを考えると、まるで夢のようである。感謝と喜びが胸に込み上げてくる。
「どうしたの? あなた……?」
ドロシーは優しく聞いてくる。
「こんなに可愛いくて優しい娘が奥さんだなんて、本当にいいのかなって……」
俺は幸せすぎて少し怖くなっていた。
「ふふっ、本当言うとね……、昔倉庫で助けてくれたじゃない……。あの時からこうなりたかったの……」
そう言って、真っ赤になってうつむくドロシー。長年秘めてきた想いの発露だった。
「えっ? あの時から好きでいてくれたの?」
まさかそんなことだとは思いもしなかった俺は、目を丸くしてしまう。
「そうよ! この鈍感さん!」
ジト目で俺をにらむドロシー。その表情には、少しの苛立ちが見て取れた。
「あ、そ、そうだったんだ……」
俺は自分の鈍感さに呆れ、照れくさそうに頭をかく。実に申し訳ない。
「こう見えても、たくさんの人から言い寄られてたんだからね」
ちょっとすねたドロシーも可愛いのだ。
「そうだよね、ドロシーは僕たちのアイドルだもの……」
「ふふっ、でもまだ、純潔ピッカピカよ」
ドロシーは嬉しそうに笑う。
「それは……、俺のために?」
俺の声は震えていた。自分には過ぎたことのように思えてしまう。
「あなたにも守られたし……、私もずっと守ってきたわ……、今日のために……」
「今日のため……」
見つめ合う二人――――。
その瞬間、二人の間に流れる時間が止まったかのようだった。暖炉の炎だけが、静かに揺らめいている。
夕陽を受けてオレンジに輝きだす石造りの街。その光景は、まるで絵画のように美しく、心に深く刻まれていく。
武闘会の余韻の残るメインストリートはまだ賑わいを見せていた。まさか優勝者が新郎となって頭上をタキシード着て飛んでるとは、誰も思わないだろう。その状況の滑稽さに、俺は内心で苦笑する。
「この街ともお別れだな……」
俺が感傷的につぶやくと、
「私は、あなたが居てくれたらどこでもいいわ」
と、ドロシーはうれしそうに笑った。その笑顔には、未来への希望が溢れていた。
「あは、それを言うなら、俺もドロシーさえ居てくれたらどこでもいいよ」
「うふふっ!」
満面の笑みのドロシー。夕日を受けて銀髪がキラキラと煌めき、まるで天から舞い降りた天使のように見えた。
見つめ合う二人……。その瞬間、この世界は二人だけになる――――。
ドロシーが目を閉じた。
可愛い新妻のおねだり……。俺はそっとくちびるを重ね、舌をからませる。
すると、ドロシーは一か月間の寂しさをぶつけるように、熱く激しく俺をむさぼってきた。その情熱には、寂しい別離を経た再会の喜びと、これからの人生への期待が込められている。
俺もその想いに応えた。二人の息遣いが激しくなり、心臓の鼓動が高まっていく――――。
カーン! カーン!
教会の鐘が夕刻を告げる。それはまるで二人の結婚を祝福するかのように、いつもより鮮やかに街中に響きわたった。
鐘の音が響く中、俺たちは空高く舞い上がっていく。二人にはもう怖いものなど何もない。ただ、希望に満ちた未来だけが広がっていた。
◇
お姫様抱っこのまま、二人は幸せに包まれながら夕焼け空を飛んで行く――――。
新居についた頃には御嶽山の山肌も色を失い、宵闇が迫ってきていた。二人の新生活の幕開けを祝福しているように、空には鮮やかな宵の明星が輝く。
「奥様、こちらがスイートホームですよ!」
俺は木製のデッキにそっと着地した。辺りには森の香りが立ち、新鮮な空気が二人を包み込む。
「うわぁ! すごい、すごーい!」
ドロシーは目を輝かせて甘い新婚生活の拠点となるログハウスをあちこち眺めた。そして振り返ると池の向こうに聳え立つ御嶽山に圧倒され、大きく両手をあげた。
「素敵~!」
その叫び声は、静寂な森に響き渡る。
小ぢんまりとした木の温もりが感じられる外観、まだ芳しい材木の香り。一人で閉じこもるつもりだった小さなログハウスは、二人の愛の巣になり、俺の目にも輝いて見えた。
俺はドアを開けて、ドロシーを案内する。
「ごめんね、まだ何もないんだ」
まだ生活感のない殺風景な部屋にはベッドとテーブルしかない。
「本当に何もないのね……」
薄暗い部屋を見回すドロシー。
俺は急いで魔法で暖炉に火をともした。炎が揺らめき、部屋に温かな光と影を作り出す。
「私が素敵なお部屋に仕立てちゃってもいい?」
ドロシーの目がキラリと光る。
「もちろん! じゃあ、明日は遠くの街の雑貨屋へ行こう」
俺はドロシーの手を取って引き寄せ、つぶらなブラウンの瞳を見つめた。
じっと見つめあう二人――――。
その瞳に映る自分の姿に、俺はこれからの幸せな日々を予感する。
暖炉の炎に揺れる美しい頬のラインを、俺はそっとなでた。しっとりと柔らかな肌の温もりが、指先から伝わってくる。
こんなに可愛い娘が俺の奥さんになってくれた……。それは俺にとってまだ信じられないことだった。前世ではあれほどあがいたのに彼女もできなかったことを考えると、まるで夢のようである。感謝と喜びが胸に込み上げてくる。
「どうしたの? あなた……?」
ドロシーは優しく聞いてくる。
「こんなに可愛いくて優しい娘が奥さんだなんて、本当にいいのかなって……」
俺は幸せすぎて少し怖くなっていた。
「ふふっ、本当言うとね……、昔倉庫で助けてくれたじゃない……。あの時からこうなりたかったの……」
そう言って、真っ赤になってうつむくドロシー。長年秘めてきた想いの発露だった。
「えっ? あの時から好きでいてくれたの?」
まさかそんなことだとは思いもしなかった俺は、目を丸くしてしまう。
「そうよ! この鈍感さん!」
ジト目で俺をにらむドロシー。その表情には、少しの苛立ちが見て取れた。
「あ、そ、そうだったんだ……」
俺は自分の鈍感さに呆れ、照れくさそうに頭をかく。実に申し訳ない。
「こう見えても、たくさんの人から言い寄られてたんだからね」
ちょっとすねたドロシーも可愛いのだ。
「そうだよね、ドロシーは僕たちのアイドルだもの……」
「ふふっ、でもまだ、純潔ピッカピカよ」
ドロシーは嬉しそうに笑う。
「それは……、俺のために?」
俺の声は震えていた。自分には過ぎたことのように思えてしまう。
「あなたにも守られたし……、私もずっと守ってきたわ……、今日のために……」
「今日のため……」
見つめ合う二人――――。
その瞬間、二人の間に流れる時間が止まったかのようだった。暖炉の炎だけが、静かに揺らめいている。