院長は俺をじっと見つめ、言葉を紡ぐ――――。

「ユータさん。あなたは、夫としての分を果たし、常に妻を愛し、敬い、慰め、助けて、変わることなく、その健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも、死が二人を分かつときまで、命の灯の続く限り、あなたの妻に対して、堅く節操を守ることを約束しますか?」

 院長の厳かな声が、チャペルに響き渡る。

『死が二人を分かつとき……?』

 心臓にズキッと痛みが走った。まるで、氷のトゲが胸に突き刺さったかのような痛み――――。

 腕だけになったドロシーが脳裏にフラッシュバックし、めまいがした。

 決意が揺らぐ――――。

 その動揺は、まるで嵐の中の小舟のように脳髄をグラグラと揺らした。

「なぁに? もう浮気しようとか考えてるの?」

 ドロシーがワザと茶目っ気たっぷりに言う。その声には、俺の不安を和らげようとする優しさが溢れていた。

「な、何言うんだよ! 俺はドロシーを裏切ることなんてしないよ!」

 思わず声が裏返る。その反応に、ドロシーは優しく微笑んだ。

「なら、誓って……。私はもう子供じゃないわ。全て分かった上でここにいるの」

 ドロシーは俺をまっすぐに見つめる。その瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。

 そう……。そうだよ……な。

 俺は軽くうなずくと、もう一度目をつぶり、大きく何度か深呼吸をして心を落ち着けた。

 そして、ドロシーをしっかりと見つめ、ニッコリとほほ笑えんで力強く言った。

「誓います!」

 チャペルに響き渡る力強い言葉――――。

 これは単なる誓いではなく、死んでもドロシーを守り抜くという、これからの人生全てを賭けた悲壮な覚悟を込めた誓いだった。

 院長は優しくうなずくと、ドロシーをまっすぐに見つめる。

「ドロシーさん。あなたは、妻としての分を果たし、常に夫を愛し、敬い、慰め、助けて、変わることなく、その健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも、死が二人を分かつときまで、命の灯の続く限り、あなたの夫に対して、堅く節操を守ることを約束しますか?」

 ドロシーは愛おしそうに俺をじっと見つめ、潤む目で言った。

「誓います……」

 その瞳には、無限の愛情が映っている。

 満足そうにうなずいた院長は、さっき俺たちから集めた『魔法の指輪』をトレーに載せて差し出した。その思い出の指輪は、改めて二人の魂を永遠に結ぶ象徴となるのだ。

 俺は自信をもってドロシーの白くて細い左手の薬指にはめる。その指輪が滑り込む瞬間、二人の絆ががっちりと結ばれたような感覚に包まれた。

 ドロシーはニコッと笑うと、お返しに俺の薬指にはめてくれる。

「はい、では、誓いのキスよぉ~!」

 院長が嬉しそうに両手を高く掲げた。その声には、温かな祝福が込められていた。

 俺は照れながらドロシーに近づく。頬が熱くなり、心臓の鼓動が早まる。

 ドロシーは静かに上を向いて目をつぶった。その表情には、幸せと期待が満ちていた。

 まるでイチゴみたいなプリッとした鮮やかなくちびる。

 俺は吸い寄せられるようにそっとくちびるを重ねた――――。

 柔らかく温かな感触にとろけそうになる。この瞬間俺たちは正式に夫婦となったのだ。

 まるで二つの魂が一つに溶け合うかのような天にも昇るような心地だった。

「おめでとうございまーす!」

 アバドンが目に涙を浮かべながらパチパチと手を叩きながら祝福してくれる。

「おめでとう、これであなたたちは立派な夫婦よ」

 院長も目を潤ませ、目じりを抑えた。

 と、その時だった――――。

 ガン! と入り口のドアが乱暴に開く。その無粋な衝撃は、幸せな空気を一瞬にして引き裂いた。

「いたぞ! あの男だ!」

 王国軍の兵士たちがもう()ぎつけてやってきてしまった。その声には、容赦ない冷酷さが滲む。

「何だお前たちは! ここは神聖なるチャペルよ! 誰の許可を得て入ってきてるの!?」

 院長はすごい剣幕で叫んだ。その声には、聖なる空間に土足で踏み込む不埒(ふらち)者に対する激しい怒りが込められていた。

 俺は裏口から逃げようとドロシーの手を取ったが、先に裏口に走っていたアバドンが首を振る。

「ダメです! 裏口にも来ています」

 必死に裏口のノブを押さえるその声には、焦りと悔しさが混ざっていた。

「その男はおたずね者だ! かばうなら重罪だぞ!」

 兵士長がドスの効いた声で院長に喚く。

「教会は法王の管轄、王国軍といえども捜査には令状が必要よ! 令状を見せなさい!」

 院長の声には、揺るぎない正義感と勇気が込められていた。

「構わん! ひっとらえろ!」

 兵士長は兵士たちに指示を出す。その声には、法を無視した狂気すら感じられた。一斉に襲い掛かってくる兵士たち。その足音が、まるで運命の時計の音のように響き渡る。