翌日、俺は田舎の中古建物の物件をいくつか見て回り、小さめのログハウスを買うことにした。一人で住むのだからそんなに大きな家は要らない。その選択には、新たな人生への覚悟が込められていた。
部屋は一部屋。キッチンがついていて、トイレと風呂が奥にある。玄関の前はデッキとなっており、イスとテーブルを置いたら森の景色を快適に楽しめそうだった。その光景を想像するだけで、心が少し和らぐ。
契約が終わった夜にさっそく拠点にまで移築する。玄関に腰掛けると目を閉じて、ログハウス全体に飛行魔法を行き渡らせていく。黄金色の光を帯びていくログハウス――――。
「さぁ、行こう……」
俺は目を開けるとニヤッと笑った。
ギシギシッと家鳴りがして、家全体がふわりと浮かびあがる。
「いいぞ、いいぞ……」
徐々に飛行魔法の魔力を上げていくと、月夜の空高く、黄金色の光を纏うログハウスは舞い上がって行った。
「いいね、いいね!」
月の光を浴びながら、村の上空を御嶽山へと旋回して行くログハウス――――。
俺は冷たい夜風を浴びながら村の家々を見下ろしていた。
それぞれの家の窓から漏れるランプの優しい灯り。それは幸せの光だった。
前世で失敗し、今世でも届かないその灯りに俺は深くため息をついた。一体みんなはどうやって幸せを手にしているのだろうか?
俺は肩をすくめて首を振ると、魔力を全開にしてログハウスを一気に加速していった。
◇
家具や食料、日用品も揃えないといけない。ベッドにテーブルに椅子に棚を運び、日用品は自宅から持っていく。その一つ一つの作業が、新たな生活の始まりを実感させた。
水回りも大切である。裏の貯水タンクには水魔法で生成した水をため、排水は簡易浄化槽経由で遠くの小川まで配管を伸ばした。
一週間くらい忙しく作業して何とか生活できる環境が出来上がる。暇な時間ができるとドロシーのことを思い出してしまうので、忙しくしていた方が気が楽だったのだ。
早速コーヒーを入れるとウッドデッキに座って飲んでみる。まだ木の香りの漂うログハウスにコーヒーのかぐわしい香りが素晴らしいハーモニーを奏でた。
「ほぉぉぉ……」
俺は高原のさわやかな風を受けながらゆっくり首を振った。新居一発目のコーヒーは極上の体験を届けてくれる。
見上げれば雄大な御嶽山から噴煙が真っ青な空めがけて一筋昇っていた。
そんな風景を眺めながら俺は深く息をついた。
◇
翌日、俺は久しぶりに孤児院を訪れる。懐かしい風景が、記憶の奥底を揺さぶった。
俺は早速屋根に上り、ドロシーが見つけていた瓦の壊れているところを直す。これで雨漏りは大丈夫だろう。
降りてくると院長が待っていた。ニッコリとほほ笑むその姿は、変わらぬ温かさを放っている。
「ユータ!」
俺をハグしてくる院長。昔は見上げるばかりだった院長も今や俺の方が背が高い。その事実に、時の流れを痛感した。
俺は院長の背中をポンポンと叩きながら聞く。
「お久しぶりです。お元気ですか?」
「元気よ~! ユータのおかげで助成も増えてね、悩みの種も解消したのよ!」
ハグを解いた院長は、最高の笑顔で俺の手をギュッと握りしめた。
「それは良かったです」
俺も嬉しくなる。長らくお世話になってばかりだった俺も、少しは恩返しできたようだ。その事実に、小さな誇りを感じた。
「実は今日は相談がありまして……」
「分かってるわ、部屋に来て」
院長は真っ直ぐ俺を見つめた。
さすが院長、全てお見通しのようである。
俺は静かにうなずいた。
◇
俺は院長室で、事の経緯と今後の計画について話す。言葉を紡ぐ度に、胸の奥で複雑な感情が渦巻いた。
「ユータの考えはわかったわ。でも、その計画にはドロシーの気持ちが考慮されてないのよね」
「いや、おたずね者と縁があるのは凄い危険なことですよ」
俺は力説する。その言葉には、ドロシーを守りたいという強い思いが込められていた。
「ユータ……、リスクのない人生なんてないのよ。人生はどのリスクを取って心を熱く燃やすかという旅なのよ。ユータの判断だけで決めるのは……どうかしら?」
俺は静かに首を振った。
確かにそうかもしれない。でも、腕だけになってしまったドロシーを見ている俺からしたら、そんな理想論など心に響かない。たとえ【光陰の杖】があっても二連続で攻撃を浴びたら死んでしまうのだ。人は死んだら終わり。その現実が、胸を締め付けた。
「いやいや、本当に命が危ないんです。実際ドロシーは一度死にかけているんですから」
「分かるわよ。でも、それをどう評価するかはドロシーの問題じゃないかしら?」
「何言ってるんですか! 次、ドロシーに何かあったら俺、正気じゃいられないですよ!」
俺は深い愛情と恐怖に突き動かされ、半分涙声で叫んだ――――。
院長は目をつぶり、大きく息をつく。
窓の外から子供たちの遊ぶ声が響いてくる。その無邪気な笑い声が、状況の重さを際立たせた。
「分かったわ……。そうしたら、武闘会の後、またここへ寄って。そこでもう一度ユータの気持ちを聞かせて」
院長は深い理解と慈愛が宿る優しい目で俺を見た。
「……。分かりました」
俺は大きく息をする。
窓から差し込む陽光が、二人の間に落ちている。
俺はつい声を荒げてしまった自分の至らなさに思わず首を振った。
部屋は一部屋。キッチンがついていて、トイレと風呂が奥にある。玄関の前はデッキとなっており、イスとテーブルを置いたら森の景色を快適に楽しめそうだった。その光景を想像するだけで、心が少し和らぐ。
契約が終わった夜にさっそく拠点にまで移築する。玄関に腰掛けると目を閉じて、ログハウス全体に飛行魔法を行き渡らせていく。黄金色の光を帯びていくログハウス――――。
「さぁ、行こう……」
俺は目を開けるとニヤッと笑った。
ギシギシッと家鳴りがして、家全体がふわりと浮かびあがる。
「いいぞ、いいぞ……」
徐々に飛行魔法の魔力を上げていくと、月夜の空高く、黄金色の光を纏うログハウスは舞い上がって行った。
「いいね、いいね!」
月の光を浴びながら、村の上空を御嶽山へと旋回して行くログハウス――――。
俺は冷たい夜風を浴びながら村の家々を見下ろしていた。
それぞれの家の窓から漏れるランプの優しい灯り。それは幸せの光だった。
前世で失敗し、今世でも届かないその灯りに俺は深くため息をついた。一体みんなはどうやって幸せを手にしているのだろうか?
俺は肩をすくめて首を振ると、魔力を全開にしてログハウスを一気に加速していった。
◇
家具や食料、日用品も揃えないといけない。ベッドにテーブルに椅子に棚を運び、日用品は自宅から持っていく。その一つ一つの作業が、新たな生活の始まりを実感させた。
水回りも大切である。裏の貯水タンクには水魔法で生成した水をため、排水は簡易浄化槽経由で遠くの小川まで配管を伸ばした。
一週間くらい忙しく作業して何とか生活できる環境が出来上がる。暇な時間ができるとドロシーのことを思い出してしまうので、忙しくしていた方が気が楽だったのだ。
早速コーヒーを入れるとウッドデッキに座って飲んでみる。まだ木の香りの漂うログハウスにコーヒーのかぐわしい香りが素晴らしいハーモニーを奏でた。
「ほぉぉぉ……」
俺は高原のさわやかな風を受けながらゆっくり首を振った。新居一発目のコーヒーは極上の体験を届けてくれる。
見上げれば雄大な御嶽山から噴煙が真っ青な空めがけて一筋昇っていた。
そんな風景を眺めながら俺は深く息をついた。
◇
翌日、俺は久しぶりに孤児院を訪れる。懐かしい風景が、記憶の奥底を揺さぶった。
俺は早速屋根に上り、ドロシーが見つけていた瓦の壊れているところを直す。これで雨漏りは大丈夫だろう。
降りてくると院長が待っていた。ニッコリとほほ笑むその姿は、変わらぬ温かさを放っている。
「ユータ!」
俺をハグしてくる院長。昔は見上げるばかりだった院長も今や俺の方が背が高い。その事実に、時の流れを痛感した。
俺は院長の背中をポンポンと叩きながら聞く。
「お久しぶりです。お元気ですか?」
「元気よ~! ユータのおかげで助成も増えてね、悩みの種も解消したのよ!」
ハグを解いた院長は、最高の笑顔で俺の手をギュッと握りしめた。
「それは良かったです」
俺も嬉しくなる。長らくお世話になってばかりだった俺も、少しは恩返しできたようだ。その事実に、小さな誇りを感じた。
「実は今日は相談がありまして……」
「分かってるわ、部屋に来て」
院長は真っ直ぐ俺を見つめた。
さすが院長、全てお見通しのようである。
俺は静かにうなずいた。
◇
俺は院長室で、事の経緯と今後の計画について話す。言葉を紡ぐ度に、胸の奥で複雑な感情が渦巻いた。
「ユータの考えはわかったわ。でも、その計画にはドロシーの気持ちが考慮されてないのよね」
「いや、おたずね者と縁があるのは凄い危険なことですよ」
俺は力説する。その言葉には、ドロシーを守りたいという強い思いが込められていた。
「ユータ……、リスクのない人生なんてないのよ。人生はどのリスクを取って心を熱く燃やすかという旅なのよ。ユータの判断だけで決めるのは……どうかしら?」
俺は静かに首を振った。
確かにそうかもしれない。でも、腕だけになってしまったドロシーを見ている俺からしたら、そんな理想論など心に響かない。たとえ【光陰の杖】があっても二連続で攻撃を浴びたら死んでしまうのだ。人は死んだら終わり。その現実が、胸を締め付けた。
「いやいや、本当に命が危ないんです。実際ドロシーは一度死にかけているんですから」
「分かるわよ。でも、それをどう評価するかはドロシーの問題じゃないかしら?」
「何言ってるんですか! 次、ドロシーに何かあったら俺、正気じゃいられないですよ!」
俺は深い愛情と恐怖に突き動かされ、半分涙声で叫んだ――――。
院長は目をつぶり、大きく息をつく。
窓の外から子供たちの遊ぶ声が響いてくる。その無邪気な笑い声が、状況の重さを際立たせた。
「分かったわ……。そうしたら、武闘会の後、またここへ寄って。そこでもう一度ユータの気持ちを聞かせて」
院長は深い理解と慈愛が宿る優しい目で俺を見た。
「……。分かりました」
俺は大きく息をする。
窓から差し込む陽光が、二人の間に落ちている。
俺はつい声を荒げてしまった自分の至らなさに思わず首を振った。