続いて建物を建てて行かないとだが……池のほとりはちょっと地盤が柔らかい。しっかりとした基礎が必要のようだ。
俺は岩肌をさらす御嶽山の山頂付近を飛んで、良さげな岩を探す――――。
冷たい風が頬を撫でる中、眼下に広がる荒々しい火山の様相は息を呑むほどの美しさだった。
「いいね、いいね! いい形の岩はないかなぁ……?」
しかし、さすがにそんな都合のいい岩は転がってはいない。自然は、人間の思惑通りには動かないものだ、たとえデジタルだとしても。
仕方がないので崖から切り出すことにする。俺は断崖絶壁の前に浮いて止まると、崖に向けて右手をのばして気合を込める――――。
「行けっ! ウォーターカッター!」
水魔法で鋭く水を超高速で噴き出した。
バッシューー! ジュボボボボ!!
断崖絶壁の硬い岩は水しぶきをまき散らしながら、まるで豆腐のように斬れていく――――。
「おぉ! なんか行けそうだ。くふふふ」
俺は家の敷地面積サイズになるように、景気よく崖にメスを入れていく。丸ッと一枚岩で家の基礎が切り出せたらいい家になるに違いない。
と、その時、ズズズズと重低音の振動を発しながら、周辺もろとも崩落しはじめた。
「うぉっ! ヤバい!」
俺はゆっくりと崩落していく千トンはあろうかという巨岩に全力の飛行魔法をかけた――――。
くぅぅぅ……。
何とか崩落は止められたが、今度は周りの岩たちが周りから落ちてきて上に覆いかぶさってくる。
「ちょっと待ってよ! ひぃぃぃ!」
俺は全力の飛行魔法をかけ続けながら巨石たちを必死に避け続ける。襲い来る巨石たちとの決死のチェイス。自分の限界と向き合う恐怖と興奮が全身を駆け巡った――――。
「くはぁぁぁ!」
最後の一つを何とかかわし、大きく息をつく。
巨石はただの大きい石ではあるが、そのどっしりとした様相で迫って来られると本能的に畏怖を感じてしまうのであった。
◇
何とか切り抜けると、俺はよろよろと飛びながら敷地上空まで巨石を運んでいった。
フラフラと空を飛ぶ巨大な四角い岩。まるでマグリットの不可思議な絵のように実にシュールな光景である。もし誰かがこの光景を目にしたら、神秘を感じてしまうに違いない。
ようやく上空にたどりついた俺。
「ふぅ……、遠かった。そーれっ!」
俺は上面を上に向け、一気に派手に落とした――――。
真っ逆さまにすごい速度で落ちて行く巨岩……。
ヒュオォォォォ……。
盛大な風きり音を上げながら、池のほとりへ向けてどんどん小さくなっていく――――。
直後、激しい衝撃音が山々にこだました。
巨大な岩は半分地中にめり込み、水面はその衝撃で盛大に水しぶきを上げ、大きな波紋を作っていった――――。
うっひょー!
かつてこんな豪快な家づくりがあっただろうか? 俺は空中でグッとこぶしを握った。
最後にウォーターカッターで上面を慎重に水平に切り取り、岩のステージの出来上がりである。
十メートル四方はあるだろうか? 黒光りする玄武岩の一枚岩とはなんとも贅沢な基礎である。俺は達成感に包まれた。
ここを見つけてから一時間も経っていないのにもう基礎までできてしまった。何とも魔法とは便利なものである。
お湯を沸かしてコーヒーを入れると、俺は広大な岩盤の上に腰掛けて香ばしい香りを楽しんだ。
見上げると雄大な御嶽山が荒々しい岩肌を晒して聳えている。その姿は、まるで永遠の時を刻む巨人のようだった。
チチチチ、という小鳥の鳴き声が響き、森の香りが風に乗ってやってくる。その瞬間、自然の息吹に全身が包み込まれていくのを感じた。
おぉぉぉぉ……。
この風景をドロシーにも見せたいなと、つい考えてしまう。きっと、『すごい! すごーい!』って言ってくれるに違いないのだ……。
しかし――――。
「ドロシー……」
不覚にも涙がポロリとこぼれる。
知らぬ間に自分の中でドロシーがとても大きな存在になっていることを思い知らされた。大切な大切な可愛い女の子、ドロシー。離れたくない。その思いが、まるで鋭利な刃物のように胸を刺す。
でも、俺の直感は告げている、恐ろしいトラブルは必ずやってくる。この波乱万丈の俺の人生に十八歳の少女を巻き込むわけにはいかないのだ。その決意と後悔が、絡み合って心を苦しめる。
俺は大きく息をつき、頭を抱えた。
遠くで鳥がさえずっている――――。
俺は岩肌をさらす御嶽山の山頂付近を飛んで、良さげな岩を探す――――。
冷たい風が頬を撫でる中、眼下に広がる荒々しい火山の様相は息を呑むほどの美しさだった。
「いいね、いいね! いい形の岩はないかなぁ……?」
しかし、さすがにそんな都合のいい岩は転がってはいない。自然は、人間の思惑通りには動かないものだ、たとえデジタルだとしても。
仕方がないので崖から切り出すことにする。俺は断崖絶壁の前に浮いて止まると、崖に向けて右手をのばして気合を込める――――。
「行けっ! ウォーターカッター!」
水魔法で鋭く水を超高速で噴き出した。
バッシューー! ジュボボボボ!!
断崖絶壁の硬い岩は水しぶきをまき散らしながら、まるで豆腐のように斬れていく――――。
「おぉ! なんか行けそうだ。くふふふ」
俺は家の敷地面積サイズになるように、景気よく崖にメスを入れていく。丸ッと一枚岩で家の基礎が切り出せたらいい家になるに違いない。
と、その時、ズズズズと重低音の振動を発しながら、周辺もろとも崩落しはじめた。
「うぉっ! ヤバい!」
俺はゆっくりと崩落していく千トンはあろうかという巨岩に全力の飛行魔法をかけた――――。
くぅぅぅ……。
何とか崩落は止められたが、今度は周りの岩たちが周りから落ちてきて上に覆いかぶさってくる。
「ちょっと待ってよ! ひぃぃぃ!」
俺は全力の飛行魔法をかけ続けながら巨石たちを必死に避け続ける。襲い来る巨石たちとの決死のチェイス。自分の限界と向き合う恐怖と興奮が全身を駆け巡った――――。
「くはぁぁぁ!」
最後の一つを何とかかわし、大きく息をつく。
巨石はただの大きい石ではあるが、そのどっしりとした様相で迫って来られると本能的に畏怖を感じてしまうのであった。
◇
何とか切り抜けると、俺はよろよろと飛びながら敷地上空まで巨石を運んでいった。
フラフラと空を飛ぶ巨大な四角い岩。まるでマグリットの不可思議な絵のように実にシュールな光景である。もし誰かがこの光景を目にしたら、神秘を感じてしまうに違いない。
ようやく上空にたどりついた俺。
「ふぅ……、遠かった。そーれっ!」
俺は上面を上に向け、一気に派手に落とした――――。
真っ逆さまにすごい速度で落ちて行く巨岩……。
ヒュオォォォォ……。
盛大な風きり音を上げながら、池のほとりへ向けてどんどん小さくなっていく――――。
直後、激しい衝撃音が山々にこだました。
巨大な岩は半分地中にめり込み、水面はその衝撃で盛大に水しぶきを上げ、大きな波紋を作っていった――――。
うっひょー!
かつてこんな豪快な家づくりがあっただろうか? 俺は空中でグッとこぶしを握った。
最後にウォーターカッターで上面を慎重に水平に切り取り、岩のステージの出来上がりである。
十メートル四方はあるだろうか? 黒光りする玄武岩の一枚岩とはなんとも贅沢な基礎である。俺は達成感に包まれた。
ここを見つけてから一時間も経っていないのにもう基礎までできてしまった。何とも魔法とは便利なものである。
お湯を沸かしてコーヒーを入れると、俺は広大な岩盤の上に腰掛けて香ばしい香りを楽しんだ。
見上げると雄大な御嶽山が荒々しい岩肌を晒して聳えている。その姿は、まるで永遠の時を刻む巨人のようだった。
チチチチ、という小鳥の鳴き声が響き、森の香りが風に乗ってやってくる。その瞬間、自然の息吹に全身が包み込まれていくのを感じた。
おぉぉぉぉ……。
この風景をドロシーにも見せたいなと、つい考えてしまう。きっと、『すごい! すごーい!』って言ってくれるに違いないのだ……。
しかし――――。
「ドロシー……」
不覚にも涙がポロリとこぼれる。
知らぬ間に自分の中でドロシーがとても大きな存在になっていることを思い知らされた。大切な大切な可愛い女の子、ドロシー。離れたくない。その思いが、まるで鋭利な刃物のように胸を刺す。
でも、俺の直感は告げている、恐ろしいトラブルは必ずやってくる。この波乱万丈の俺の人生に十八歳の少女を巻き込むわけにはいかないのだ。その決意と後悔が、絡み合って心を苦しめる。
俺は大きく息をつき、頭を抱えた。
遠くで鳥がさえずっている――――。