席に戻ると、宴の熱気が俺を包み込む。レヴィアがニヤッと笑って小声で耳打ちしてくる。その表情には、悪戯っぽい光が宿っていた。
「お盛んじゃの」
俺は頬が熱くなるのを感じながら、必死に平静を装って応えた。
「のぞき見は趣味が悪いですよ」
「我にもしてくれんかの?」
レヴィアは可愛いくちびるを突き出してくるが、そんなのに付き合ってはいられない。
「本日はもうキャパオーバーです」
俺はジョッキを呷った。
「なんじゃ? つまらん奴じゃ」
レヴィアは俺のノリの悪さに失望の色をにじませる。
「え? 何をしてくれるんです?」
突如、酔っぱらったリリアンが割り込んできた。その目は好奇心に輝いている。
「王女様、そろそろ戻られないと王宮が大騒ぎになりますよ」
俺はリリアンに諭すように言う。
「えぇーーーー! 帰りたくなーい!」
リリアンが俺にもたれかかってくる。もう泥酔状態である。その体からは、優美で甘い香りが漂ってきた。
「ちょ、ちょっと! 王女様! 飲みすぎですって!」
「あら、いいじゃない。飲みすぎて何が悪いって言うのよ!!」
王女はパシパシと俺の背中を叩く。
「あぁ、もうホントたちが悪い……。レヴィア様、王宮に空間を繋げていただけませんか?」
俺はぐったりとするリリアンをハグして、落ちないようにしながらレヴィアに頼む。
「やなこった。リリアンと仲良くしとけばよかろう」
レヴィアは面倒くさそうにウイスキーを呷った。
ふんわりと香ってくる甘い乙女の香りに、俺は理性が飛びそうである。
「えぇ……、頼みますよぉ……。アバドン! ちょっと何とか言ってよ!」
半分寝かけていたアバドンは身体を起こし、様子を見回すとレヴィアに微笑んだ。
「美しいドラゴン様、ぜひ、素晴らしい技を見せていただけませんか? グフフフ……」
「『美しい』じゃとう! 貴様! よう分かっとる。カッカッカ!」
レヴィアは豪快に笑うと指で宙にツーっと線を描いた――――。
パキッ!
空間は割れ、王宮へとつながったようだ。
俺はアバドンのヨイショスキルに感銘を受け、また、自分の至らなさに苦笑してしまう。
裂けた空間を広げると、そこには豪奢な寝室が広がっていた。綺麗に整えられた立派なベッドが、まるで眠る者を誘うかのように佇んでいる。
「ヨイショ!」
レヴィアは両手をリリアンの方に向け、飛行魔法で持ち上げる。
「きゃぁ!」
驚いて空中で手足をバタバタさせるリリアン。その姿は、まるで宙を泳ぐ人魚のようである。
レヴィアは、そのままリリアンをポーンとベッドに放りだして言った。
「じいさまに『美化すんなってレヴィアが怒ってた』って伝えておくんじゃぞ」
「えー、待って! もう一杯、もう……」
すがるリリアンを無視して、レヴィアは空間をシュッと閉じた。
「これで邪魔者は居なくなったのう、ユータよ」
上目遣いで嬉しそうに笑うレヴィア。
アバドンは、周囲の空気を読んだかのように静かに立ち上がった。
「私はそろそろ失礼します……」
そそくさと魔法陣を描いて中へと消えていってしまう。
「あっ! おい! 待てよ! くぅぅぅ……」
ついに二人きりになってしまった。酔ったレヴィアと二人きりというのは何とも危険な匂いがする。
「あー、そろそろお開きにしましょうか?」
俺はテーブルの上を整理していく。
「あ、お主、あの娘と乳繰り合うつもりじゃな?」
レヴィアは俺をジト目で見た。その眼差しには、いたずらっ子の好奇心が感じられる。
「ドロシーはもう寝ちゃってますから、そんなことしません!」
俺は真っ赤になって、必死に平静を装った。
「なら、起こしてやろう」
レヴィアは人差し指を立てて二階にむける。
「ストーーーーップ!! 疲れているんだから寝かせてあげてください!」
心の中では、ドロシーへの想いが渦巻いているが、寝ている彼女を起こしてまで欲望に身をゆだねるのは違うと思っていた。
「冗談じゃよ。で、あの娘とは今後どうするんじゃ? 結婚するのか?」
レヴィアの質問に、俺は思わず息を呑んだ。その言葉が、心の奥底にある迷いを一気に呼び覚ました。
「そ、それは……」
俺は言葉を失い、考え込んでしまう。まさに今悩んでいることだからだ。胸の内で、様々な感情が渦を巻く。
「私は彼女が大切ですし、ずっと一緒にいたいと思っていますが……、私と一緒にいるとまた必ず命の危険に遭わせてしまいます。大切だからこそ身を引こうかと……」
言葉に詰まりながら、俺は心の内を吐露した。危険と隣り合わせの自分の人生に彼女を巻き込むのはどうしても踏み切れない。
「ふん、つまらん奴じゃ。好きにするがいいが……、人生において大切なことは頭で決めるな、心で決めるんじゃ」
レヴィアは親指で自分の胸を指さし、ウイスキーをゴクリと飲んだ。その仕草には、長い年月を生きてきた者の風格が感じられた。
「お盛んじゃの」
俺は頬が熱くなるのを感じながら、必死に平静を装って応えた。
「のぞき見は趣味が悪いですよ」
「我にもしてくれんかの?」
レヴィアは可愛いくちびるを突き出してくるが、そんなのに付き合ってはいられない。
「本日はもうキャパオーバーです」
俺はジョッキを呷った。
「なんじゃ? つまらん奴じゃ」
レヴィアは俺のノリの悪さに失望の色をにじませる。
「え? 何をしてくれるんです?」
突如、酔っぱらったリリアンが割り込んできた。その目は好奇心に輝いている。
「王女様、そろそろ戻られないと王宮が大騒ぎになりますよ」
俺はリリアンに諭すように言う。
「えぇーーーー! 帰りたくなーい!」
リリアンが俺にもたれかかってくる。もう泥酔状態である。その体からは、優美で甘い香りが漂ってきた。
「ちょ、ちょっと! 王女様! 飲みすぎですって!」
「あら、いいじゃない。飲みすぎて何が悪いって言うのよ!!」
王女はパシパシと俺の背中を叩く。
「あぁ、もうホントたちが悪い……。レヴィア様、王宮に空間を繋げていただけませんか?」
俺はぐったりとするリリアンをハグして、落ちないようにしながらレヴィアに頼む。
「やなこった。リリアンと仲良くしとけばよかろう」
レヴィアは面倒くさそうにウイスキーを呷った。
ふんわりと香ってくる甘い乙女の香りに、俺は理性が飛びそうである。
「えぇ……、頼みますよぉ……。アバドン! ちょっと何とか言ってよ!」
半分寝かけていたアバドンは身体を起こし、様子を見回すとレヴィアに微笑んだ。
「美しいドラゴン様、ぜひ、素晴らしい技を見せていただけませんか? グフフフ……」
「『美しい』じゃとう! 貴様! よう分かっとる。カッカッカ!」
レヴィアは豪快に笑うと指で宙にツーっと線を描いた――――。
パキッ!
空間は割れ、王宮へとつながったようだ。
俺はアバドンのヨイショスキルに感銘を受け、また、自分の至らなさに苦笑してしまう。
裂けた空間を広げると、そこには豪奢な寝室が広がっていた。綺麗に整えられた立派なベッドが、まるで眠る者を誘うかのように佇んでいる。
「ヨイショ!」
レヴィアは両手をリリアンの方に向け、飛行魔法で持ち上げる。
「きゃぁ!」
驚いて空中で手足をバタバタさせるリリアン。その姿は、まるで宙を泳ぐ人魚のようである。
レヴィアは、そのままリリアンをポーンとベッドに放りだして言った。
「じいさまに『美化すんなってレヴィアが怒ってた』って伝えておくんじゃぞ」
「えー、待って! もう一杯、もう……」
すがるリリアンを無視して、レヴィアは空間をシュッと閉じた。
「これで邪魔者は居なくなったのう、ユータよ」
上目遣いで嬉しそうに笑うレヴィア。
アバドンは、周囲の空気を読んだかのように静かに立ち上がった。
「私はそろそろ失礼します……」
そそくさと魔法陣を描いて中へと消えていってしまう。
「あっ! おい! 待てよ! くぅぅぅ……」
ついに二人きりになってしまった。酔ったレヴィアと二人きりというのは何とも危険な匂いがする。
「あー、そろそろお開きにしましょうか?」
俺はテーブルの上を整理していく。
「あ、お主、あの娘と乳繰り合うつもりじゃな?」
レヴィアは俺をジト目で見た。その眼差しには、いたずらっ子の好奇心が感じられる。
「ドロシーはもう寝ちゃってますから、そんなことしません!」
俺は真っ赤になって、必死に平静を装った。
「なら、起こしてやろう」
レヴィアは人差し指を立てて二階にむける。
「ストーーーーップ!! 疲れているんだから寝かせてあげてください!」
心の中では、ドロシーへの想いが渦巻いているが、寝ている彼女を起こしてまで欲望に身をゆだねるのは違うと思っていた。
「冗談じゃよ。で、あの娘とは今後どうするんじゃ? 結婚するのか?」
レヴィアの質問に、俺は思わず息を呑んだ。その言葉が、心の奥底にある迷いを一気に呼び覚ました。
「そ、それは……」
俺は言葉を失い、考え込んでしまう。まさに今悩んでいることだからだ。胸の内で、様々な感情が渦を巻く。
「私は彼女が大切ですし、ずっと一緒にいたいと思っていますが……、私と一緒にいるとまた必ず命の危険に遭わせてしまいます。大切だからこそ身を引こうかと……」
言葉に詰まりながら、俺は心の内を吐露した。危険と隣り合わせの自分の人生に彼女を巻き込むのはどうしても踏み切れない。
「ふん、つまらん奴じゃ。好きにするがいいが……、人生において大切なことは頭で決めるな、心で決めるんじゃ」
レヴィアは親指で自分の胸を指さし、ウイスキーをゴクリと飲んだ。その仕草には、長い年月を生きてきた者の風格が感じられた。