「で、その後ね……ユータが指輪をくれたんだけど……」
『ブフッ』っと吹き出す俺。その反応に、ドロシーはジト目で俺をにらむ。
ドロシーは右手の薬指の指輪をアバドンに見せる。その指輪が、ろうそくの灯りに照らされて柔らかく輝く。
「お、薬指じゃないですか!」
アバドンが盛り上げる。その声には、祝福の気持ちが込められていた。
「ところが、ユータったら『太さが合う指にはめた』って言うのよ!」
そう言ってふくれるドロシー。その頬が、少し赤く染まっている。
「えーーーー! 旦那様、それはダメですよ!」
アバドンはオーバーなリアクションしながら俺を責める。その表情には、本気の驚きと軽い叱責が混ざっている。
「いや、だって、俺……指輪なんてあげたこと……ないもん……」
うなだれる俺。持ち上げられたと思ったらすぐにダメ出しされる俺……ひどい。
「あげたことなくても……ねぇ」
アバドンはドロシーを見る。二人の間に、何か共謀めいたものが流れる。
「その位常識ですよねぇ」
二人は見つめ合って俺をイジった。
「はいはい、私が悪うございました」
そう言ってエールをグッと空けた。その苦みが、自分の不甲斐なさを流し去ってくれる。
「次はしっかり頼みましたよ、旦那様」
アバドンはそう言いながら俺のジョッキにお替わりを流し込む。
「つ、次って……?」
俺が目を白黒していると、アバドンはジョッキを掲げる。
「今宵は記念すべき夜になりそうですな! カンパーイ!」
アバドンはニヤッと笑いながら俺とドロシーを交互に見た。
俺はドロシーと目を合わせ、クスッと笑うとジョッキをぶつけていった。
「カンパーイ!」「カンパーイ!」
三人の笑い声が店内に響き渡る。この温かな空気の中で、俺は改めて、仲間の大切さを実感した。そして、第二の人生の順風満帆な手ごたえが、静かに胸の中で膨らんでいくのを感じていた。
◇
「私、アバドンさんってもっと怖い方かと思ってました」
酔ってちょっと赤い頬を見せながらドロシーが言う。その声には、少しの照れと安堵が混ざっている。
「私、ぜーんぜん! 怖くないですよ! ね、旦那様!」
こっちに振るアバドン。その目には、子供のような純粋さが宿っている。確かに俺と奴隷契約してからこっち、かなりいい奴になっているのは事実だ。まぁ、千年前はどうだったかは分からないが……。
「うん、まぁ、頼れる奴だよ」
「うふふ、これからもよろしくお願いしますねっ!」
ドロシーは嬉しそうに笑う。その笑顔に、部屋中が明るくなったような気がした。
その笑顔に触発されたか、アバドンはいきなり立ち上がる。
「はい! お任せください!」
と、嬉しそうに答えると、俺の方を向く。
「旦那様と姐さんが揉めたら私、姐さんの方につきますけどいいですか?」
と、ニコニコと聞いてくる。その目には、悪戯っぽい輝きが宿っている。
俺は目をつぶりため息をつくと、
「まぁ、認めよう」
と、渋い顔で返した。これで奴隷契約もドロシー関連だけは例外となってしまった。しかし、『ダメ』とも言えないのだ。胸の内で複雑な感情が渦巻く。
アバドンはニヤッと笑うと、
「旦那様に不満があったら何でも言ってください、私がバーンと解決しちゃいます!」
そう言ってドロシーにアピールする。その姿は、まるで忠実な騎士のようだ。
「うふふ、味方が増えたわ」
嬉しそうに微笑むドロシー。その笑顔を見れば俺の選択も悪くなかったように思える。
と、その時だった――――。
「シッ!」
急にアバドンが口に人差し指を立て、険しい表情で入り口のドアを見る。空気が一変した。
俺も気配を察知し、眉をひそめながらドロシーに二階への階段を指す。誰が来ようが俺とアバドンなら何とでもなるが、ドロシーだけは守らねばならない。
ドロシーは青い顔をしながら抜き足差し足避難していく。緊張が部屋中に満ちた。
俺はアバドンに階段を守らせると、裏口から外へ出て屋根へと飛び上がる――――。
夜の闇に紛れ、上から店の表をそっとのぞくと、そこにはフードをかぶった小柄の怪しい人物が、店の内部をうかがっている姿があった。
性懲りも無く勇者の手先がやってきたのだろうか? 一気に勝負をつけねばならない。
俺は音もなく、素早く背後に飛び降りると同時に腕を取り、一気に背中に回して極めた。
「きゃぁ!」
驚く不審者。その声は、予想外にも若い女だった。
「何の用だ!?」
と、顔を見ると……美しい顔立ち、それはなんとリリアンだった。月明かりに照らされた透き通るような白い肌に、俺は息を呑む。
「お、王女様!?」
俺は急いで手を放す。こんな街外れの寂れたところに夜間、王女がお忍びでやってくる……。もはや嫌な予感しかしない。俺は渋い顔でキュッと口を結んだ。
『ブフッ』っと吹き出す俺。その反応に、ドロシーはジト目で俺をにらむ。
ドロシーは右手の薬指の指輪をアバドンに見せる。その指輪が、ろうそくの灯りに照らされて柔らかく輝く。
「お、薬指じゃないですか!」
アバドンが盛り上げる。その声には、祝福の気持ちが込められていた。
「ところが、ユータったら『太さが合う指にはめた』って言うのよ!」
そう言ってふくれるドロシー。その頬が、少し赤く染まっている。
「えーーーー! 旦那様、それはダメですよ!」
アバドンはオーバーなリアクションしながら俺を責める。その表情には、本気の驚きと軽い叱責が混ざっている。
「いや、だって、俺……指輪なんてあげたこと……ないもん……」
うなだれる俺。持ち上げられたと思ったらすぐにダメ出しされる俺……ひどい。
「あげたことなくても……ねぇ」
アバドンはドロシーを見る。二人の間に、何か共謀めいたものが流れる。
「その位常識ですよねぇ」
二人は見つめ合って俺をイジった。
「はいはい、私が悪うございました」
そう言ってエールをグッと空けた。その苦みが、自分の不甲斐なさを流し去ってくれる。
「次はしっかり頼みましたよ、旦那様」
アバドンはそう言いながら俺のジョッキにお替わりを流し込む。
「つ、次って……?」
俺が目を白黒していると、アバドンはジョッキを掲げる。
「今宵は記念すべき夜になりそうですな! カンパーイ!」
アバドンはニヤッと笑いながら俺とドロシーを交互に見た。
俺はドロシーと目を合わせ、クスッと笑うとジョッキをぶつけていった。
「カンパーイ!」「カンパーイ!」
三人の笑い声が店内に響き渡る。この温かな空気の中で、俺は改めて、仲間の大切さを実感した。そして、第二の人生の順風満帆な手ごたえが、静かに胸の中で膨らんでいくのを感じていた。
◇
「私、アバドンさんってもっと怖い方かと思ってました」
酔ってちょっと赤い頬を見せながらドロシーが言う。その声には、少しの照れと安堵が混ざっている。
「私、ぜーんぜん! 怖くないですよ! ね、旦那様!」
こっちに振るアバドン。その目には、子供のような純粋さが宿っている。確かに俺と奴隷契約してからこっち、かなりいい奴になっているのは事実だ。まぁ、千年前はどうだったかは分からないが……。
「うん、まぁ、頼れる奴だよ」
「うふふ、これからもよろしくお願いしますねっ!」
ドロシーは嬉しそうに笑う。その笑顔に、部屋中が明るくなったような気がした。
その笑顔に触発されたか、アバドンはいきなり立ち上がる。
「はい! お任せください!」
と、嬉しそうに答えると、俺の方を向く。
「旦那様と姐さんが揉めたら私、姐さんの方につきますけどいいですか?」
と、ニコニコと聞いてくる。その目には、悪戯っぽい輝きが宿っている。
俺は目をつぶりため息をつくと、
「まぁ、認めよう」
と、渋い顔で返した。これで奴隷契約もドロシー関連だけは例外となってしまった。しかし、『ダメ』とも言えないのだ。胸の内で複雑な感情が渦巻く。
アバドンはニヤッと笑うと、
「旦那様に不満があったら何でも言ってください、私がバーンと解決しちゃいます!」
そう言ってドロシーにアピールする。その姿は、まるで忠実な騎士のようだ。
「うふふ、味方が増えたわ」
嬉しそうに微笑むドロシー。その笑顔を見れば俺の選択も悪くなかったように思える。
と、その時だった――――。
「シッ!」
急にアバドンが口に人差し指を立て、険しい表情で入り口のドアを見る。空気が一変した。
俺も気配を察知し、眉をひそめながらドロシーに二階への階段を指す。誰が来ようが俺とアバドンなら何とでもなるが、ドロシーだけは守らねばならない。
ドロシーは青い顔をしながら抜き足差し足避難していく。緊張が部屋中に満ちた。
俺はアバドンに階段を守らせると、裏口から外へ出て屋根へと飛び上がる――――。
夜の闇に紛れ、上から店の表をそっとのぞくと、そこにはフードをかぶった小柄の怪しい人物が、店の内部をうかがっている姿があった。
性懲りも無く勇者の手先がやってきたのだろうか? 一気に勝負をつけねばならない。
俺は音もなく、素早く背後に飛び降りると同時に腕を取り、一気に背中に回して極めた。
「きゃぁ!」
驚く不審者。その声は、予想外にも若い女だった。
「何の用だ!?」
と、顔を見ると……美しい顔立ち、それはなんとリリアンだった。月明かりに照らされた透き通るような白い肌に、俺は息を呑む。
「お、王女様!?」
俺は急いで手を放す。こんな街外れの寂れたところに夜間、王女がお忍びでやってくる……。もはや嫌な予感しかしない。俺は渋い顔でキュッと口を結んだ。