「キャ――――!!」
夜の静寂を破る悲鳴が、かすかに窓の外から聞こえてきた。俺の耳朶を掠めたその声は、幽かで儚いものだったが、その中に秘められた恐怖と絶望の響きは、俺の心臓を強く鷲づかみにした。
空耳……? いや、違う!
幻聴がこんなに生々しく響くはずがないのだ。
俺は息を潜め、そっと窓の外を覗いた。離れの倉庫の窓から、かすかな明かりが漏れている。その光は、夜の闇の中で不吉な灯火のように揺らめいていた。
あんなところ、夜中に誰かが使う訳がない! あそこだ!!
俺は迷わず窓から滑り降り、はだしで倉庫へと向かった。冷たい地面が足の裏に突き刺さるが、そんなことは気にも留めない。俺の心はただ一つ、悲痛な叫びの救済にしかなかった。
倉庫の窓に顔を寄せ、中を覗き込んだ瞬間、俺の血の気が引いた。
男に組み敷かれ、服を剥ぎ取られた少女の姿。僅かに膨らみ始めた白い胸が、揺れるランプの炎に照らされ、妖艶な光景を作り出している。少女の喉首に押し当てられた刃物。そして、涙に濡れた顔。
(ドロシー!)
俺の心が悲鳴を上げた。十二歳のドロシー。その陽気で明るい笑顔は、孤児院のみんなの希望だった。俺自身、何度も彼女に勇気づけられたことか。
(絶対に救わなくては!)
しかし、どうやって? 俺は焦燥感に駆られながら、必死に状況を把握しようとする。
男がズボンを下ろし始めた。時間がない。俺は急いで鑑定スキルを使った。
イーヴ=クロデル 王国軍二等兵士
剣士 レベル三十五
(なんてこった。兵士じゃないか! しかもレベル三十五……)
絶望的な状況に、俺の脳裏を真っ白な霧が覆う。レベル1の俺では、まるで蟷螂の斧だ。かといって、大人を呼びに行く時間もない。
余計な事をすれば俺も標的になりかねない中で、俺は必死に頭を必死に回した。
(考えろ……考えろ……)
俺の心臓が鼓動を早め、額には冷や汗が滲む。ドロシーの悲痛な表情が、俺の瞳に焼き付いて離れない。
俺の心臓が激しく鼓動を打つ。迷う時間はない。意を決すると、俺は窓をガッと開け、震える声で叫んだ。
「クロデル二等兵! 何をしてるか! 詰め所に通報が行ってるぞ。早く逃げろ!」
突如響き渡った声に、男は跳び上がる。子供の声であることに一瞬戸惑いを見せたが、自分の名前と階級が呼ばれたことにヤバい雰囲気を感じ取ったようだった。
「チッ!」
舌打ちと共に、男は慌ててズボンを上げ、ランプを掴むと夜の闇へと逃げ去った。その背中に、俺は憎悪の眼差しを向けずにはいられなかった。
「うわぁぁぁん!」
ドロシーの嗚咽が倉庫に響き渡る。俺は兵士が通りの向こうに消えるのを確認すると、躊躇なくドロシーの元へ駆け寄った。
月の光に照らされた彼女の顔は、涙と鼻水で滲み、その姿は俺の心を締め付けた。
「もう大丈夫、僕が来たからね……」
俺はそっとドロシーを抱きしめる。その小さな体が、俺の腕の中で震えている。
「うぇぇぇ……」
ドロシーは嗚咽を繰り返しながら、しばらく泣き続けた。その間、俺は彼女の背中を優しく撫で続けた。十二歳のまだ幼い少女を襲うなんて、俺の中で怒りが沸々と湧き上がる。
やがて、ドロシーの啜り泣きが収まり、かすれた声でポツリポツリと事情を話してくれた。
「トイレに……起きた時に、倉庫で明かりが揺れてるのを見つけて……何だろうって……」
その呟きに、俺は静かにうなずく。好奇心旺盛な彼女らしい行動が、こんな恐ろしい結果を招いてしまったのだ。
窓から差し込む淡い月明かりに、ドロシーの銀髪が煌々と輝いている。どこまでも澄んだブラウンの瞳から、涙が止めどなく溢れ出す。その姿は、儚くも美しく、俺の心を激しく揺さぶった。
「うぇぇぇ……」
思い出したようにまたドロシーは嗚咽をあげる。
俺は再びゆっくりとドロシーを抱きしめ、何度も何度も背中を優しく撫でた。
『ドロシーに幸せが来ますように……、嫌なこと全部忘れますように……』
俺は心の中で懇ろに祈りつづける。
二人の姿は月明かりに照らされて静かに青白く輝いていた。
夜の静寂を破る悲鳴が、かすかに窓の外から聞こえてきた。俺の耳朶を掠めたその声は、幽かで儚いものだったが、その中に秘められた恐怖と絶望の響きは、俺の心臓を強く鷲づかみにした。
空耳……? いや、違う!
幻聴がこんなに生々しく響くはずがないのだ。
俺は息を潜め、そっと窓の外を覗いた。離れの倉庫の窓から、かすかな明かりが漏れている。その光は、夜の闇の中で不吉な灯火のように揺らめいていた。
あんなところ、夜中に誰かが使う訳がない! あそこだ!!
俺は迷わず窓から滑り降り、はだしで倉庫へと向かった。冷たい地面が足の裏に突き刺さるが、そんなことは気にも留めない。俺の心はただ一つ、悲痛な叫びの救済にしかなかった。
倉庫の窓に顔を寄せ、中を覗き込んだ瞬間、俺の血の気が引いた。
男に組み敷かれ、服を剥ぎ取られた少女の姿。僅かに膨らみ始めた白い胸が、揺れるランプの炎に照らされ、妖艶な光景を作り出している。少女の喉首に押し当てられた刃物。そして、涙に濡れた顔。
(ドロシー!)
俺の心が悲鳴を上げた。十二歳のドロシー。その陽気で明るい笑顔は、孤児院のみんなの希望だった。俺自身、何度も彼女に勇気づけられたことか。
(絶対に救わなくては!)
しかし、どうやって? 俺は焦燥感に駆られながら、必死に状況を把握しようとする。
男がズボンを下ろし始めた。時間がない。俺は急いで鑑定スキルを使った。
イーヴ=クロデル 王国軍二等兵士
剣士 レベル三十五
(なんてこった。兵士じゃないか! しかもレベル三十五……)
絶望的な状況に、俺の脳裏を真っ白な霧が覆う。レベル1の俺では、まるで蟷螂の斧だ。かといって、大人を呼びに行く時間もない。
余計な事をすれば俺も標的になりかねない中で、俺は必死に頭を必死に回した。
(考えろ……考えろ……)
俺の心臓が鼓動を早め、額には冷や汗が滲む。ドロシーの悲痛な表情が、俺の瞳に焼き付いて離れない。
俺の心臓が激しく鼓動を打つ。迷う時間はない。意を決すると、俺は窓をガッと開け、震える声で叫んだ。
「クロデル二等兵! 何をしてるか! 詰め所に通報が行ってるぞ。早く逃げろ!」
突如響き渡った声に、男は跳び上がる。子供の声であることに一瞬戸惑いを見せたが、自分の名前と階級が呼ばれたことにヤバい雰囲気を感じ取ったようだった。
「チッ!」
舌打ちと共に、男は慌ててズボンを上げ、ランプを掴むと夜の闇へと逃げ去った。その背中に、俺は憎悪の眼差しを向けずにはいられなかった。
「うわぁぁぁん!」
ドロシーの嗚咽が倉庫に響き渡る。俺は兵士が通りの向こうに消えるのを確認すると、躊躇なくドロシーの元へ駆け寄った。
月の光に照らされた彼女の顔は、涙と鼻水で滲み、その姿は俺の心を締め付けた。
「もう大丈夫、僕が来たからね……」
俺はそっとドロシーを抱きしめる。その小さな体が、俺の腕の中で震えている。
「うぇぇぇ……」
ドロシーは嗚咽を繰り返しながら、しばらく泣き続けた。その間、俺は彼女の背中を優しく撫で続けた。十二歳のまだ幼い少女を襲うなんて、俺の中で怒りが沸々と湧き上がる。
やがて、ドロシーの啜り泣きが収まり、かすれた声でポツリポツリと事情を話してくれた。
「トイレに……起きた時に、倉庫で明かりが揺れてるのを見つけて……何だろうって……」
その呟きに、俺は静かにうなずく。好奇心旺盛な彼女らしい行動が、こんな恐ろしい結果を招いてしまったのだ。
窓から差し込む淡い月明かりに、ドロシーの銀髪が煌々と輝いている。どこまでも澄んだブラウンの瞳から、涙が止めどなく溢れ出す。その姿は、儚くも美しく、俺の心を激しく揺さぶった。
「うぇぇぇ……」
思い出したようにまたドロシーは嗚咽をあげる。
俺は再びゆっくりとドロシーを抱きしめ、何度も何度も背中を優しく撫でた。
『ドロシーに幸せが来ますように……、嫌なこと全部忘れますように……』
俺は心の中で懇ろに祈りつづける。
二人の姿は月明かりに照らされて静かに青白く輝いていた。