またしばらく行くと魔物の反応があった。草むらの中をかがんで移動し、そーっと(のぞ)いてみると……

ゴーレム レア度:★★★★
魔物 レベル百十

 今度は岩でできたデカい魔物だ。巨大な岩に大きな石が多数組み合わさって腕や足を構成し、ズシン、ズシン、と歩いている。その姿は、まるで大地そのものが魂を宿したかのようだ。

 岩タイプには『水』か『草』か『格闘』タイプだったなぁとポケモンの知識を思い出すが、この世界がどうなっているかは良く分からない。

 俺は試しに水魔法を威力控えめにして当ててみる。

「ウォーターボール……」

 三メートルくらいの水の球がニュルンッと現れると、日差しにキラキラと輝きながら草原の上を疾走し、ゴーレムに直撃する。

 ドッパーン! と水が激しくはじけた。

 しかし……、全然ダメージを与えられていない。ゴーレムは怒ってこっちに駆けてくる。やっぱり岩に水はダメみたいだ。綺麗に洗ってやったようにしか見えない。

 では、火か、風か、雷か……、どれもなんだか効きそうにない。うーん、どうしよう?
 そうこうしているうちにもゴーレムは近づいてくる。その足音が、地面を震わせる。

 仕方ない、俺はキョロキョロと投げられそうなものを探す。小川のところにスーツケースくらいの岩があるので、岩をよいしょと持ち上げた。

 草原の向こうからズシン、ズシンとすごい速度でゴーレムは駆けてくる。

 俺はサッカーのスローインみたいに岩を頭上に持ち上げると、「セイヤッ!」と掛け声かけてゴーレムに投げつけた。

 ドン!

 岩は音速を超え、隕石のようにゴーレムに直撃する。

 ドォン! という激しい爆発音とともにもうもうと爆煙が吹きあがった。その衝撃で、周囲の草が大きく波を打つ。

 パラパラと破片が降ってくる。どうやらゴーレムは粉々に砕け散ったようだ。

「あー、やっぱり岩には岩がいいみたいだ」

 俺はニヤッと笑った。

 その後も何匹か魔物を倒しながらみんなの所を目指す。魔物はみなレベル百オーバーであり、かなり強い。中堅パーティでは到底勝ち目がない。一体ここは何階なのだろうか?

 遠くに仲間たちの姿が見えてきた。何とかこのままバレずに無事に帰りたいものだが……。

 俺は慎重に速度を抑え、仲間たちへと駆け寄っていった。


         ◇


「階段ありましたよー!」

 俺は手を振りながら叫ぶ。

 エレミーは駆け寄ってくると、俺の様子を見て驚いた。

「ユータ! あれっ! 服が焦げてるじゃない! 大丈夫なの?」

 涙を浮かべたエレミーの瞳には、深い心配の色が宿っている。

「え?」

 俺はあわてて服を見ると、革のベストが焼け焦げ、ヒモもちぎれていた。

 ハーピーにやられたことをうっかり忘れていたのだ。

「ユータ、ごめん~!」

 涙声でそう言うとエレミーはハグしてくる。

 甘くやわらかな香りにふわっと包まれ、押し当てられる豊満な胸が俺の本能を刺激してしまう。

 いや、ちょっと、これはまずい……。俺の心臓が高鳴り、頬が熱くなる。

 遠くでジャックが凄い目でこちらをにらんでいるのが見えた。その視線に、俺は居たたまれない気持ちになる。

「あ、大丈夫ですから! は、早くいきましょう。魔物来ちゃいますよ」

 俺はエレミーを引きはがした。

「本当に……大丈夫なの?」

 エレミーは服が破れてのぞいた俺の胸にそっと指を滑らせる。

 おふぅ……。

 その指の感触に、俺の全身が(ふる)えた。

「だ、だ、だ、大丈夫です!」

 エロティックな指使いにヤバい予感がして、エレミーを振り切ってリュックの所へ走った。心臓のドキドキが止まらない。

「階段はどこに?」

 エドガーは、心配そうに聞いてくる。

「あっちに二十分ほど歩いたところに小さなチャペルがあって、そこにあります」

「チャ、チャペルの階段!?」

 ドロテはそう言うと天を仰いだ。その表情には、深い絶望の色が浮かんでいた。

 チャペルにある階段は『呪われた階段』と呼ばれ、一般に厳しい階につながっているものばかりだそうだ。

 みんな黙り込んでしまう。その沈黙が、重く空気を()していた。

 強い風がビューっと吹き抜け、枝が大きく揺れ、サワサワとざわめく。

「とりあえず行ってみよう!」

 エドガーは、大きな声でそう言ってみんなを見回す。

 みんなは無言でうなずき、トボトボと歩き出した。その足取りには、隠せない不安が滲んでいる。

 アルはひどくおびえた様子でキョロキョロしているので、背中を叩いて元気づけた。

「この辺は魔物いなかったよ、大丈夫大丈夫」

「二十分歩いて魔物が出ないダンジョンなんてないんだよ! ユータは無知だからそんな気楽なことを言うんだ!」

 アルは涙目で怒った。まぁ、正解なのだが。

 俺は足早にみんなを連れてチャペルへと向かった。