近くの大きな木の陰にリュックを下ろすと、俺は首をグルグルと回し、腕をうーんと伸ばす。
「よし……。皆さんここで待っててくださいね」
にこやかにみんなに言った。
「いいとこ見せられないどころか、お前ばっかり、ごめんな」
アルはしょげている。
「あはは、いいってことよ。みんなに水でも配ってて。それじゃ!」
俺はアルの肩をポンポンと叩き、タッタッタと森の中へと駆けて行く。背中に感じる仲間たちの視線が、重く感じられた。
十分に距離が取れたところで、俺は隠ぺい魔法をかけて空へと飛んだ。上空から見たら何かわかるかもしれない。
風を切って上昇しながら、俺は自分の立場の特殊さを改めて実感した。実力を隠さずに出来れば楽なのだが、そんなことしたらとてつもなく面倒くさいことになるのが目に見えている。国お抱えの冒険者とかにさせられたら自由も何もなくなってしまう。
俺はどんどん高度を上げていく。眼下の景色はどんどんと小さくなり、この世界の全体像が見えてきた。森に草原に湖……でもその先にまた同じ形の森に草原に湖……。どうやらこの世界は一辺十キロ程度の地形が無限に繰り返されているだけのようだった。一体、ダンジョンとは何なのだろうか……? 俺は首をかしげた。
よく見ると、湖畔には小さな白い建物が見える。いかにも怪しい。俺はそこに向かって一気に降りていった。
綺麗な湖畔にたたずむ白い建物。それは小さな教会のようで、シンプルな三角の青い屋根に、尖塔が付いていた。なんだかすごく素敵な風景である。湖面に映る教会の姿が、この世界の神秘性をより一層際立たせていた。
「まさにファンタジーって感じだな……」
俺はつい上空をクルリと一回りしてしまう。湖畔の教会はまるでアートのように美しく、俺の心を癒した。
あまりゆっくりもしていられないので、入り口の前に着地し、ドアを開けてみる――――。
ギギギーッときしみながら開くドア。その音が、静寂を破る。
中はガランとしており、奥に下への階段があった。なるほど、ここでいいらしい。と、思った瞬間だった――――。
ズン!
いきなり胸の所が爆発し、吹き飛ばされた。
「ぐわぁ!」
耳がキーンとして痛みが全身を駆け巡る。
どうやらファイヤーボールを食らってしまったらしい。ちょっと油断しすぎだ俺――――。
自分の不注意に歯噛みした。
急いで索敵をすると、天井に何かいる。
ハーピー レア度:★★★★
魔物 レベル百二十
赤い大きな羽根を広げた女性型の鳥の魔物だ。大きなかぎ爪で天井の梁につかまり、さかさまにコウモリのようにぶら下がっている。大きな乳房に怖い顔が印象的だ。その姿は、美しくも恐ろしい。
ハーピーはさらにファイヤーボールを撃ってくる。俺はムカついたので、瞬歩でかわすと飛び上がって思いっきり殴りつける。その一撃には、さっき受けた攻撃の怒りが込められていた。
「キョエー!」
断末魔の叫びをあげ、赤い魔石となって床に転がるハーピー。その最期は、あまりにもあっけなかった。
「油断も隙も無い……」
俺はふぅっと息をつき、魔石を拾ってその輝きを眺めた。ルビー色に輝く美しい魔石、ギルドに持っていけば相当高値で売れるだろう。だが、入手経路を問われたらなんて答えたらいいだろうか……?
「うーん……。まぁ、後で考えよう」
俺はポケットに無造作に突っ込んだ。
さて、階段は見つけた。みんなをここへ連れてこなくては……。
◇
俺は索敵をしながらみんなの方へダッシュで軽快に駆けていく――――。
草原をしばらく行くと反応があった。早速鑑定をかけてみる。
オーガ レア度:★★★★
魔物 レベル百二十八
筋肉ムキムキの赤色の鬼の魔物だ。手にはバカでかい斧を持ってウロウロしている。その姿は、まさに異世界の野蛮さを体現しているようだった。
「おぉ! あれがオーガ! なるほどなるほど!」
俺はピョンと飛んで、オーガの前に出て、好奇心に駆られて声をかけた。
「もしかして、しゃべれたりする?」
しかし、オーガは俺を見ると、唸り声を上げながら斧を振りかぶり、走り寄ってくる。その目には、人間を見下す野蛮な光が宿っていた。
「何だよ、武器使うくせにしゃべれないのかよ!」
俺は高速に振り下ろされてきた斧を指先でガシッとつまむと、斧を奪い取り、オーガを蹴り飛ばした。その一連の動作は、ごく自然に流れるようにできてしまう。
早速斧を鑑定してみるが……、『オーガ』としか出ない。その結果に、俺は少しがっかりした。
蹴った衝撃で死んでしまったオーガが消えると、斧も一緒に消えてしまった。
「えっ!? あぁぁぁ……」
虚しさが胸に広がる。
どうやら斧はオーガの一部らしい。魔物の武器が売れるかもと期待した俺がバカだった。俺は苦笑を浮かべる。
それにしてもこの世界は一体どうなっているのか? なぜ、こんなゲームみたいなシステムになっているのだろう……。俺の中で疑問が膨らんでいく。
ヒュゥと爽やかな風が吹き、草原の草はサワサワといいながらウェーブを作っていく。この気持ちのいい風景の中に仕組まれた魔物というゲームシステム。誰が何のためにこんなものを作ったのだろうか……。しかし、いくら考えても理由など思い浮かばない。
俺は朱色に光り輝くオーガの魔法石を拾ってポケットにしまい、再び走り出した。
「よし……。皆さんここで待っててくださいね」
にこやかにみんなに言った。
「いいとこ見せられないどころか、お前ばっかり、ごめんな」
アルはしょげている。
「あはは、いいってことよ。みんなに水でも配ってて。それじゃ!」
俺はアルの肩をポンポンと叩き、タッタッタと森の中へと駆けて行く。背中に感じる仲間たちの視線が、重く感じられた。
十分に距離が取れたところで、俺は隠ぺい魔法をかけて空へと飛んだ。上空から見たら何かわかるかもしれない。
風を切って上昇しながら、俺は自分の立場の特殊さを改めて実感した。実力を隠さずに出来れば楽なのだが、そんなことしたらとてつもなく面倒くさいことになるのが目に見えている。国お抱えの冒険者とかにさせられたら自由も何もなくなってしまう。
俺はどんどん高度を上げていく。眼下の景色はどんどんと小さくなり、この世界の全体像が見えてきた。森に草原に湖……でもその先にまた同じ形の森に草原に湖……。どうやらこの世界は一辺十キロ程度の地形が無限に繰り返されているだけのようだった。一体、ダンジョンとは何なのだろうか……? 俺は首をかしげた。
よく見ると、湖畔には小さな白い建物が見える。いかにも怪しい。俺はそこに向かって一気に降りていった。
綺麗な湖畔にたたずむ白い建物。それは小さな教会のようで、シンプルな三角の青い屋根に、尖塔が付いていた。なんだかすごく素敵な風景である。湖面に映る教会の姿が、この世界の神秘性をより一層際立たせていた。
「まさにファンタジーって感じだな……」
俺はつい上空をクルリと一回りしてしまう。湖畔の教会はまるでアートのように美しく、俺の心を癒した。
あまりゆっくりもしていられないので、入り口の前に着地し、ドアを開けてみる――――。
ギギギーッときしみながら開くドア。その音が、静寂を破る。
中はガランとしており、奥に下への階段があった。なるほど、ここでいいらしい。と、思った瞬間だった――――。
ズン!
いきなり胸の所が爆発し、吹き飛ばされた。
「ぐわぁ!」
耳がキーンとして痛みが全身を駆け巡る。
どうやらファイヤーボールを食らってしまったらしい。ちょっと油断しすぎだ俺――――。
自分の不注意に歯噛みした。
急いで索敵をすると、天井に何かいる。
ハーピー レア度:★★★★
魔物 レベル百二十
赤い大きな羽根を広げた女性型の鳥の魔物だ。大きなかぎ爪で天井の梁につかまり、さかさまにコウモリのようにぶら下がっている。大きな乳房に怖い顔が印象的だ。その姿は、美しくも恐ろしい。
ハーピーはさらにファイヤーボールを撃ってくる。俺はムカついたので、瞬歩でかわすと飛び上がって思いっきり殴りつける。その一撃には、さっき受けた攻撃の怒りが込められていた。
「キョエー!」
断末魔の叫びをあげ、赤い魔石となって床に転がるハーピー。その最期は、あまりにもあっけなかった。
「油断も隙も無い……」
俺はふぅっと息をつき、魔石を拾ってその輝きを眺めた。ルビー色に輝く美しい魔石、ギルドに持っていけば相当高値で売れるだろう。だが、入手経路を問われたらなんて答えたらいいだろうか……?
「うーん……。まぁ、後で考えよう」
俺はポケットに無造作に突っ込んだ。
さて、階段は見つけた。みんなをここへ連れてこなくては……。
◇
俺は索敵をしながらみんなの方へダッシュで軽快に駆けていく――――。
草原をしばらく行くと反応があった。早速鑑定をかけてみる。
オーガ レア度:★★★★
魔物 レベル百二十八
筋肉ムキムキの赤色の鬼の魔物だ。手にはバカでかい斧を持ってウロウロしている。その姿は、まさに異世界の野蛮さを体現しているようだった。
「おぉ! あれがオーガ! なるほどなるほど!」
俺はピョンと飛んで、オーガの前に出て、好奇心に駆られて声をかけた。
「もしかして、しゃべれたりする?」
しかし、オーガは俺を見ると、唸り声を上げながら斧を振りかぶり、走り寄ってくる。その目には、人間を見下す野蛮な光が宿っていた。
「何だよ、武器使うくせにしゃべれないのかよ!」
俺は高速に振り下ろされてきた斧を指先でガシッとつまむと、斧を奪い取り、オーガを蹴り飛ばした。その一連の動作は、ごく自然に流れるようにできてしまう。
早速斧を鑑定してみるが……、『オーガ』としか出ない。その結果に、俺は少しがっかりした。
蹴った衝撃で死んでしまったオーガが消えると、斧も一緒に消えてしまった。
「えっ!? あぁぁぁ……」
虚しさが胸に広がる。
どうやら斧はオーガの一部らしい。魔物の武器が売れるかもと期待した俺がバカだった。俺は苦笑を浮かべる。
それにしてもこの世界は一体どうなっているのか? なぜ、こんなゲームみたいなシステムになっているのだろう……。俺の中で疑問が膨らんでいく。
ヒュゥと爽やかな風が吹き、草原の草はサワサワといいながらウェーブを作っていく。この気持ちのいい風景の中に仕組まれた魔物というゲームシステム。誰が何のためにこんなものを作ったのだろうか……。しかし、いくら考えても理由など思い浮かばない。
俺は朱色に光り輝くオーガの魔法石を拾ってポケットにしまい、再び走り出した。