「何だよ、何が言いたい?」
俺の声には、疲れと苛立ちが混じっていた。もう十分だ。この滑稽な茶番劇を早く終わらせたかった。
アバドンの首は、涙ながらに語り始める。
「旦那様の強さは異常です。到底勝てません。参りました。しかし、このアバドン、せっかく千年の辛い封印から自由になったのにすぐに殺されてしまっては浮かばれません。旦那様、このワタクシめを配下にしてはもらえないでしょうか?」
その言葉に、俺は苦笑しながら肩をすくめる。
「俺は魔人の部下なんていらないんだよ 悪いがサヨナラだ」
俺は再び剣を振りかぶった。その刃に、魔法ランプの光が冷やかに反射する。
しかし、アバドンの必死の叫びが響く。
「いやいや、ちょっと待ってください わたくしこう見えてもメチャクチャ役に立つんです 本当です」
その哀願に、俺は一瞬、躊躇する。魔人を配下にするなど、常識では考えられないことだ。しかし、自分が常識に縛られないことで成功してきた経緯を考えれば、少し話を聞いてみてもいいかも知れない。俺の中で、好奇心と警戒心が葛藤する。
「……役に立つ? どういうことだ?」
アバドンの目が希望に満ちて輝いた。
「旦那様に害をなす者が近づいてきたら教えるとか、戦うとか……そもそもわたくしこう見えても世界トップクラスに強いはずなんです 旦那様の強さがそれだけ飛びぬけているということなんですが」
俺は眉をひそめる。確かに味方になってくれればそれなりに重宝しそうではあったが……。その利点の裏に潜む危険性も、無視できない。
「でも、お前すぐに裏切りそうだからな……」
その瞬間、アバドンの目に覚悟の光が宿った。
「じゃ、こうしましょう! 奴隷契約です 奴隷にしてください そうしたら旦那様を決して裏切れないですから!」
奴隷――――。
その言葉が、俺の中で反響する。確かに、この世界には奴隷契約の魔法が存在した。
俺は首をかしげながら、魔法の小辞典を取り出して調べてみる。確かにそこに書かれていたのはレベル千の知力を持つ自分なら決して難しくはない魔法である。その事実に、俺は戸惑いを覚えた。
涙目の生首を見ながら俺はしばし逡巡した。便利さと面倒くささ、リスク、いろいろ天秤にかけながら腕を組んで考える――――。
この判断が、これからの自分の人生を大きく左右するかもしれない。
「お願いしますよぉぉぉ。損はさせませんからぁぁ」
アバドンは必死に哀願してくる。
俺はクスッと笑うとうなずき、生首をパシパシと叩いた。
「ヨシ! わかった、じゃぁこれからお前は俺の奴隷だ。俺に害なさないこと、悪さをしないこと、呼んだらすぐ来ること、分かったな!」
アバドンの身体が、喜びに震える。その様子は、まるで子犬が新しい飼い主に出会ったかのようだった。
「はいはい、もちろんでございますぅ。このアバドン、旦那様のようなお強い方の奴隷になれるなんて幸せでございますぅぅ!」
俺は慎重に魔法陣を描き、中心に生首と身体を並べると、自分の指先をナイフでつついた。一滴の血がアバドンの唇を潤す――――。
刹那、眩い光が部屋を包み込む。その輝きは、太陽の煌めきにも似て、遺跡の闇を一瞬にして払拭した。
「うわっ!」
思わず後ずさる俺。目を瞑っても、まぶたの裏に光の残像が焼き付いている。
光が薄れると、アバドンの首筋に炎のような刺青が浮かび上がっていた。その模様は生きているかのように蠢き、俺と魔人を結ぶ契約の証となっていた。
「ふぅ……。これで……、いいのかな?」
「完璧です、旦那様! ありがとうございます!」
首を抱えてすくっと立ち上がったアバドンの歓喜の声に、俺は複雑な気分になる。本当に魔人を仲間にしてしまって良かったのだろうか――――?
しかし、今さら『止めた』というわけにもいかない。
アバドンは、もはや自由に悪さをすることはできない。であれば問題ないはずではあったが、これが正解なのか、それとも大きな過ちなのかその答えは、すぐには分かりそうにない。
その時、俺はふと現実に引き戻される。
「そうだ、商談に行かなきゃ!」
俺は我に返り、アバドンに向き直った。
「この遺跡に他に何か宝物はあるか?」
アバドンは首を横に振る。
「いや、他の宝はみな盗掘に遭って持ってかれてます、旦那様」
ユータは軽くため息をつく。
「そうか……残念だな。じゃ、俺は仕事があるんで」
★5の武器をリュックにしまい、出口へと歩み出すユータ。その背中にアバドンの声が追いすがる。
「お待ちください旦那様! わたくしめはどうしたら?」
潤んだ目で訴えかけるアバドン。その姿に、ユータは一瞬、【可愛い奴】と思ってしまう。しかし、首を抱えた魔人を商談に連れていくわけにもいかない。
「うーん……。しばらく用はないので好きに暮らせ。用が出来たら呼ぶ。ただし、悪さはするなよ」
「ほ、放置プレイですか……さすが旦那様……」
アバドンの奇妙な感激に、ユータは思わず眉をひそめる。
遺跡を後にするユータの胸中には、複雑な思いが渦巻いていた。魔人を奴隷にするという選択が正しかったのか、まだ確信は持てない。でも、仲間が増えるというのは存外悪くない気分だった。
「全力で殴っても死なない相手か……確かに、面白い遊び相手になりそうだな。くふふふ」
ユータの眼差しに、好奇心と期待が宿った。
俺の声には、疲れと苛立ちが混じっていた。もう十分だ。この滑稽な茶番劇を早く終わらせたかった。
アバドンの首は、涙ながらに語り始める。
「旦那様の強さは異常です。到底勝てません。参りました。しかし、このアバドン、せっかく千年の辛い封印から自由になったのにすぐに殺されてしまっては浮かばれません。旦那様、このワタクシめを配下にしてはもらえないでしょうか?」
その言葉に、俺は苦笑しながら肩をすくめる。
「俺は魔人の部下なんていらないんだよ 悪いがサヨナラだ」
俺は再び剣を振りかぶった。その刃に、魔法ランプの光が冷やかに反射する。
しかし、アバドンの必死の叫びが響く。
「いやいや、ちょっと待ってください わたくしこう見えてもメチャクチャ役に立つんです 本当です」
その哀願に、俺は一瞬、躊躇する。魔人を配下にするなど、常識では考えられないことだ。しかし、自分が常識に縛られないことで成功してきた経緯を考えれば、少し話を聞いてみてもいいかも知れない。俺の中で、好奇心と警戒心が葛藤する。
「……役に立つ? どういうことだ?」
アバドンの目が希望に満ちて輝いた。
「旦那様に害をなす者が近づいてきたら教えるとか、戦うとか……そもそもわたくしこう見えても世界トップクラスに強いはずなんです 旦那様の強さがそれだけ飛びぬけているということなんですが」
俺は眉をひそめる。確かに味方になってくれればそれなりに重宝しそうではあったが……。その利点の裏に潜む危険性も、無視できない。
「でも、お前すぐに裏切りそうだからな……」
その瞬間、アバドンの目に覚悟の光が宿った。
「じゃ、こうしましょう! 奴隷契約です 奴隷にしてください そうしたら旦那様を決して裏切れないですから!」
奴隷――――。
その言葉が、俺の中で反響する。確かに、この世界には奴隷契約の魔法が存在した。
俺は首をかしげながら、魔法の小辞典を取り出して調べてみる。確かにそこに書かれていたのはレベル千の知力を持つ自分なら決して難しくはない魔法である。その事実に、俺は戸惑いを覚えた。
涙目の生首を見ながら俺はしばし逡巡した。便利さと面倒くささ、リスク、いろいろ天秤にかけながら腕を組んで考える――――。
この判断が、これからの自分の人生を大きく左右するかもしれない。
「お願いしますよぉぉぉ。損はさせませんからぁぁ」
アバドンは必死に哀願してくる。
俺はクスッと笑うとうなずき、生首をパシパシと叩いた。
「ヨシ! わかった、じゃぁこれからお前は俺の奴隷だ。俺に害なさないこと、悪さをしないこと、呼んだらすぐ来ること、分かったな!」
アバドンの身体が、喜びに震える。その様子は、まるで子犬が新しい飼い主に出会ったかのようだった。
「はいはい、もちろんでございますぅ。このアバドン、旦那様のようなお強い方の奴隷になれるなんて幸せでございますぅぅ!」
俺は慎重に魔法陣を描き、中心に生首と身体を並べると、自分の指先をナイフでつついた。一滴の血がアバドンの唇を潤す――――。
刹那、眩い光が部屋を包み込む。その輝きは、太陽の煌めきにも似て、遺跡の闇を一瞬にして払拭した。
「うわっ!」
思わず後ずさる俺。目を瞑っても、まぶたの裏に光の残像が焼き付いている。
光が薄れると、アバドンの首筋に炎のような刺青が浮かび上がっていた。その模様は生きているかのように蠢き、俺と魔人を結ぶ契約の証となっていた。
「ふぅ……。これで……、いいのかな?」
「完璧です、旦那様! ありがとうございます!」
首を抱えてすくっと立ち上がったアバドンの歓喜の声に、俺は複雑な気分になる。本当に魔人を仲間にしてしまって良かったのだろうか――――?
しかし、今さら『止めた』というわけにもいかない。
アバドンは、もはや自由に悪さをすることはできない。であれば問題ないはずではあったが、これが正解なのか、それとも大きな過ちなのかその答えは、すぐには分かりそうにない。
その時、俺はふと現実に引き戻される。
「そうだ、商談に行かなきゃ!」
俺は我に返り、アバドンに向き直った。
「この遺跡に他に何か宝物はあるか?」
アバドンは首を横に振る。
「いや、他の宝はみな盗掘に遭って持ってかれてます、旦那様」
ユータは軽くため息をつく。
「そうか……残念だな。じゃ、俺は仕事があるんで」
★5の武器をリュックにしまい、出口へと歩み出すユータ。その背中にアバドンの声が追いすがる。
「お待ちください旦那様! わたくしめはどうしたら?」
潤んだ目で訴えかけるアバドン。その姿に、ユータは一瞬、【可愛い奴】と思ってしまう。しかし、首を抱えた魔人を商談に連れていくわけにもいかない。
「うーん……。しばらく用はないので好きに暮らせ。用が出来たら呼ぶ。ただし、悪さはするなよ」
「ほ、放置プレイですか……さすが旦那様……」
アバドンの奇妙な感激に、ユータは思わず眉をひそめる。
遺跡を後にするユータの胸中には、複雑な思いが渦巻いていた。魔人を奴隷にするという選択が正しかったのか、まだ確信は持てない。でも、仲間が増えるというのは存外悪くない気分だった。
「全力で殴っても死なない相手か……確かに、面白い遊び相手になりそうだな。くふふふ」
ユータの眼差しに、好奇心と期待が宿った。