しばらく歩を進めると、突如として巨大な構造物が目の前に立ちはだかった――――。

 うわぁ……。

 心臓の鼓動が一瞬止まりそうになる。

 直径四十メートルを優に超える円柱状の巨大構造物だった。幾層もの床を貫き、天井まで伸びる巨大なサーバーラックはこれまでのものとは明らかに異なる威容(いよう)を放っている。表面の金網製のカバーには複雑な回路が刻まれ、青白い光が脈動のように流れており、その向こうに無数のランプが煌めいていた。まるで星空を一本の柱に閉じ込めたかのような光景に、俺は言葉を失う。

 蒼穹(そうきゅう)の彼方から降り注ぐような青白い光が、二人の顔を幻想的に照らし出す。無数の光のランプがキラキラと輝くさまは、心を震撼(しんかん)させるほどの美しさだった。

「な、何ですか……これ?」

 俺の声が(かす)れる。目の前の光景があまりにも荘厳(そうごん)で、思わず声が震えてしまう。

「マインドカーネルじゃよ」

 レヴィアの声音が変わる。いつもの軽妙なトーンは消え、神聖な厳粛(げんしゅく)さを帯びていた。

「マインド……カーネル……?」

 その言葉を口にした瞬間、不思議な戦慄(せんりつ)が背筋を走る。

「人の魂をつかさどる星の心臓部じゃ」

「え!? これが魂?」

 思わず声が裏返(うらがえ)る。目の前で瞬く光の数々が、人々の魂だと聞かされて、思考が一瞬停止してしまう。

「そうじゃよ、その驚き含めお主の喜怒哀楽もここで営まれ、あの無数の光点の一つとなって輝いておるのじゃ」

 レヴィアの声には、どこか敬虔(けいけん)な色が混じる。人知れず輝き続けるこの壮大な装置を前に、彼女もまた深い感慨に浸っているようだった。

 ユータは思わず息を呑む。目の前で鼓動のように明滅する光の一つ一つが、人間の魂であり、自分もそのうちの一つなのだ。それは全く想像もしなかった人間の本質だった。

「こ、これが……俺たち……」

 思わず後ずさってしまう。星がコンピューターで創られているのはイメージが湧かないこともないが、自分自身がこの光点の一つだと言われると、どう理解していいものか全くピンとこなかった。

 今この瞬間も、この思考もまさにこの巨大な装置の中で紡がれているという事実に、思わずブルっと身震いをしてしまう。目の前で煌めく一つ一つの光が、それぞれ誰かの人生そのものだと思うと、眩暈(めまい)がするような畏怖(いふ)の念が込み上げてくる。

 脳裏にこれまでの人生が走馬灯のように駆け巡る。薬草取りで死にそうになり、武器を売ってチートして最強となり、勇者をぶっ飛ばし、ドロシーと想いを一つにしたそれぞれの瞬間――――。

 それらすべての記憶が、この巨大な柱の中で生まれ、保存され、輝き続けているのだ。


         ◇


「さて、ヌチ・ギを叩くぞ!」

 金髪(きんぱつ)を揺らしながら、レヴィアは手元の端末(たんまつ)を必死に操作していた。マインドカーネルの表面で脈動する青白い光が、二人の顔を不気味に照らし出していた。無数の魂の光が、天上から見守るかのように煌めいている。

「ヨシ! 発見! F16064-095とF16068-102じゃ、探せ!」

 緊迫した声が|広大なサーバー空間に響く。

「え? 何ですかそれ?」

 いきなり探せと言われても何のことだかわからない。俺はキョロキョロしながら無数のサーバーラックを見回し、たじろいでいた。

「サーバーラックに番号がついとるじゃろ、それとブレードの番号じゃ。二枚を同時に引き抜くと奴は消滅する。探せ!」

 レヴィアの声には切迫感(せっぱくかん)(にじ)む。

「二枚同時ですか!?」

「そうじゃ、一枚抜いただけでは残りのサーバーの情報から修復されてしまうが、二枚同時は想定されていない。復旧できずヌチ・ギの身体は完全に消失する。どんなスキルを持っていようが引き抜いてしまえば(あらが)いようがない」

 レヴィアの説明に、ユータは思わずゾッとした。サーバーの抜差(ぬきさ)しという単純な作業で、人の存在を消せてしまうという事実に戦慄(せんりつ)を覚える。

「なるほど……、エグいですね。ヌチ・ギ以外に影響はないんですか?」

 ドロシーの顔が脳裏をよぎる。世界を救うためとはいえ、他の誰かを巻き込むわけにはいかない。

「確率的に言えば両方のブレードに同時に乗っているのはヌチ・ギだけじゃろう。安心しておけ」

 レヴィアの言葉に、ユータは思わず大きく息をついた。

 マインドカーネルはまるで二人の決意を見守るかのように、静かにキラキラと煌めき続けている。