「試しに繋いでみるってのは?」
俺は沈黙に耐えられず、口を開いた。
「繋ぎ間違えたら壊れてしまうんじゃぞ? お主、それでも試すか?」
ドスの効いたレヴィアの声に、俺はブルっと身を震わせる。
「いやっ……、そ、それは……」
間違えたら死亡確定なロシアンルーレットなど到底引けない。
「カーーーーッ! 電源さえ戻れば光る物はあるんじゃがなぁ!!」
レヴィアがバン! と操作パネルを叩いた。
「魔法……とかは?」
「海王星で魔法使えるなんてヴィーナ様くらいじゃ」
「そうだ! ヴィーナ様呼びますか?」
「……。なんて説明するんじゃ……? 『シャトル盗んで再起不能になりました』って言うのか? それこそ星ごと抹殺されるわい!」
恐ろし気に首を振るレヴィア。金髪が暗闇で揺れた気配がする。
「いやいや、ヴィーナ様は殺したりしませんよ」
「あー、あのな。お主が会ってたのは地球のヴィーナ様。我が言ってるのは金星のヴィーナ様じゃ」
「え? 別人ですか?」
「別じゃないんじゃが、同一人物でもないんじゃ……」
レヴィアの説明は全くもって意味不明だった。そもそも金星とはなんだろうか? 混沌とした疑問が渦巻く。
その時だった。
コォォーーーー。
何やら船体前方から音がし始めた。僅かに振動も伝わってくる。
「マズい……。大気圏突入が始まった……」
後ろからはスカイパトロール、前には大気圏、まさに絶体絶命である。命運を分ける時が近づいていた。
「ど、どうするんですか!?」
心臓がドクドクと速く打ち、冷や汗がにじんでくる。脈拍が耳朶を震わせる。
「なるようにしかならん。必ず時は来る……」
レヴィアは覚悟を決めたようにケーブルを持つと、静かに明るくなる瞬間を待った。長年生きてきた龍の威厳が戻ってきたように感じる。
確かに大気圏突入時には火の玉のようになる訳だから、その時になれば船内は明るくなるだろうが……それでは手遅れなのではないだろうか? だが、もはやこうなっては他に打つ手などなかった。二人の、我が星の幸運を信じるしかない。
徐々に大気との摩擦音が強くなっていく。船体を震わすガタガタという音が、次第に激しさを増す。
重苦しい沈黙の時間が続いた。漆黒の闇の中で、二人の祈りが交差する――――。
◇
いきなり船内が真っ赤に輝いた。紅蓮の光が漆黒の闇をいきなり引き裂く。
「うわっ!」
恐る恐る目を開けると目の前に『STOP』という赤いホログラムが大きく展開されていた。威圧的な文字が、宇宙空間に浮遊する。
「よっしゃー!」
レヴィアは嬉々としてケーブルに工具を当て、作業を開始する。その手捌きには数千年の経験が滲んでいた。
「見えさえすればチョチョイのチョイじゃ!」
軽口を叩きながら手早くケーブルを修復していくレヴィア。
その時だった――――。
パン! パン!
威嚇射撃弾がシャトルの周辺で次々とはじけた。閃光が|船体を包む。ついに実力行使が始まってしまった。
「ひぃぃぃぃ! レヴィア様ぁ!」
俺は真っ赤に輝く船内で間抜けな声を出す。この極限状況で、声が裏返ってしまう。
『くふふふ。頑張れ頑張れ』
急に若い女性の声が頭に響いた。優美で楽し気な声が、まるで風のように心の中を通り抜ける――――。
へ……?
俺は急いで辺りを見回してみるが、誰もいない。血の気が引く思いで、船室の隅々まで目を凝らす。
「だ、誰……?」
俺はキツネにつままれたように呆然としてしまう。
その悪戯っぽい声の主は、この危機的状況を楽しんでいるかのようだった。
赤い光の中で、見えない存在の気配が漂う。命懸けの逃走劇に、新たな謎が加わった瞬間だった。
俺は沈黙に耐えられず、口を開いた。
「繋ぎ間違えたら壊れてしまうんじゃぞ? お主、それでも試すか?」
ドスの効いたレヴィアの声に、俺はブルっと身を震わせる。
「いやっ……、そ、それは……」
間違えたら死亡確定なロシアンルーレットなど到底引けない。
「カーーーーッ! 電源さえ戻れば光る物はあるんじゃがなぁ!!」
レヴィアがバン! と操作パネルを叩いた。
「魔法……とかは?」
「海王星で魔法使えるなんてヴィーナ様くらいじゃ」
「そうだ! ヴィーナ様呼びますか?」
「……。なんて説明するんじゃ……? 『シャトル盗んで再起不能になりました』って言うのか? それこそ星ごと抹殺されるわい!」
恐ろし気に首を振るレヴィア。金髪が暗闇で揺れた気配がする。
「いやいや、ヴィーナ様は殺したりしませんよ」
「あー、あのな。お主が会ってたのは地球のヴィーナ様。我が言ってるのは金星のヴィーナ様じゃ」
「え? 別人ですか?」
「別じゃないんじゃが、同一人物でもないんじゃ……」
レヴィアの説明は全くもって意味不明だった。そもそも金星とはなんだろうか? 混沌とした疑問が渦巻く。
その時だった。
コォォーーーー。
何やら船体前方から音がし始めた。僅かに振動も伝わってくる。
「マズい……。大気圏突入が始まった……」
後ろからはスカイパトロール、前には大気圏、まさに絶体絶命である。命運を分ける時が近づいていた。
「ど、どうするんですか!?」
心臓がドクドクと速く打ち、冷や汗がにじんでくる。脈拍が耳朶を震わせる。
「なるようにしかならん。必ず時は来る……」
レヴィアは覚悟を決めたようにケーブルを持つと、静かに明るくなる瞬間を待った。長年生きてきた龍の威厳が戻ってきたように感じる。
確かに大気圏突入時には火の玉のようになる訳だから、その時になれば船内は明るくなるだろうが……それでは手遅れなのではないだろうか? だが、もはやこうなっては他に打つ手などなかった。二人の、我が星の幸運を信じるしかない。
徐々に大気との摩擦音が強くなっていく。船体を震わすガタガタという音が、次第に激しさを増す。
重苦しい沈黙の時間が続いた。漆黒の闇の中で、二人の祈りが交差する――――。
◇
いきなり船内が真っ赤に輝いた。紅蓮の光が漆黒の闇をいきなり引き裂く。
「うわっ!」
恐る恐る目を開けると目の前に『STOP』という赤いホログラムが大きく展開されていた。威圧的な文字が、宇宙空間に浮遊する。
「よっしゃー!」
レヴィアは嬉々としてケーブルに工具を当て、作業を開始する。その手捌きには数千年の経験が滲んでいた。
「見えさえすればチョチョイのチョイじゃ!」
軽口を叩きながら手早くケーブルを修復していくレヴィア。
その時だった――――。
パン! パン!
威嚇射撃弾がシャトルの周辺で次々とはじけた。閃光が|船体を包む。ついに実力行使が始まってしまった。
「ひぃぃぃぃ! レヴィア様ぁ!」
俺は真っ赤に輝く船内で間抜けな声を出す。この極限状況で、声が裏返ってしまう。
『くふふふ。頑張れ頑張れ』
急に若い女性の声が頭に響いた。優美で楽し気な声が、まるで風のように心の中を通り抜ける――――。
へ……?
俺は急いで辺りを見回してみるが、誰もいない。血の気が引く思いで、船室の隅々まで目を凝らす。
「だ、誰……?」
俺はキツネにつままれたように呆然としてしまう。
その悪戯っぽい声の主は、この危機的状況を楽しんでいるかのようだった。
赤い光の中で、見えない存在の気配が漂う。命懸けの逃走劇に、新たな謎が加わった瞬間だった。