「くっ……」

 俺の(のど)から、(うめ)くような声が漏れる。レヴィアの表情(ひょうじょう)(けわ)しさを増していた。これは、もはや戦いですらない。一方的な虐殺(ぎゃくさつ)になるだろう。

「こらアカン……撤退するぞ」

 レヴィアはウンザリとした表情で首を振り、俺の手をつかむと空間の裂け目に逃げ込む。その手に込められた力から、深刻さが伝わってくる。先ほどまでの少女らしい表情は消え失せ、数千年の時を生きた険しい龍の凄みが戻っていた。

 さらに苛烈さが増す予感の第二ラウンド。俺は神々の戦争に巻き込まれてしまった運命を呪った。戦乙女たちの嘲笑(ちょうしょう)が背中に突き刺さる中、俺たちは闇の中へと消えていく。

「もはや……覚悟を決めんとならんようじゃな……」

 レヴィアの呟きが、闇の中で重く響いた。


       ◇


 空間の裂け目を抜けるとそこはレヴィアの神殿だった。大理石造りの荘厳な神殿に満ちた静謐な空気が、先ほどまでの戦場の喧騒を洗い流していく。

 巨大なモニターの青白い光が大理石の床に映り込み、幻想的な光景を作り出している。

「あなたぁ! あなたぁ……、うっうっうっ……」

 画面の前で座っていたドロシーは俺を見つけると駆け寄って飛びついてきた。その抱きしめる腕の強さに、再会を待ちわびた時間の重みが感じられる。

 ドロシーの体が小刻みに震えていた。温かい涙が俺の胸に染みていく。慣れない戦闘サポートに不測の事態の連続で相当に消耗しているようだった。

「ありがとう……、よく頑張ってくれた……」

 俺はドロシーを抱きしめ、優しく頭を撫でた。柔らかな髪の感触が、彼女が確かにここにいることを教えてくれる。

「感動の再会の途中申し訳ないんじゃが、ヌチ・ギを倒しに行くぞ!」

 レヴィアが覚悟を決めたように低い声を出す。その声には、これまで聞いたことのない重みが込められていた。

「え? どうやってあんなの倒すんですか?」

 ラグナロク用に準備された戦乙女(ヴァルキュリ)たちを擁するヌチ・ギに対し、ただの人間の俺とドロシーではとても勝ち目があるようには思えなかった。

 レヴィアは覚悟を決めた目で俺を見据える。

「サーバーを……壊すんじゃ」

 へっ!?

 俺はそのとんでもない発想に息を呑む。

「サーバーって……この星を合成(レンダリング)してる海王星にあるコンピューター……のことですよね?」

「もう、これしか手はない……」

 レヴィアは深刻そうに顔をしかめた。

 そのまさに禁忌ともいうべき計画に俺は思わず首を振る。

 この世界を創っているシステムを壊す、それは考えうる限り最強の攻撃ではあるが……、とてもやっていいことには思えなかった。