「おーい!」

 諏訪湖(はん)で金髪をキラキラと(きら)めかせながら、手を振るレヴィアを見つけた。草原の中で彼女の姿は、宝石(ほうせき)のように輝いている。

「レヴィア様ぁ! やった、やりましたよ!!」

 俺は涙で視界がぼやける中、全身(ぜんしん)の痛みも忘れて、レヴィアの元へと飛んだ。疲弊(ひへい)した体が、喜びだけで動いている。

「うんうん、よくやった!」

 満面の笑みでレヴィアは両手を上げる。無邪気な瞳の奥に灯る喜びの光は、大いなる管理者というより純粋な少女そのものだった。

 俺はパァン! といい音でハイタッチ。清々しい音が、辺りに勝利の余韻を奏でた。

「イエーイ!」「イェーイ!」

 この瞬間、俺たちは管理者でも人でもない。ただの戦友として喜びを分かち合った。

「いやー、死にかけましたよー!」

 俺はズタズタになったシャツの中にのぞく内出血の赤いあざを見せた。紫がかった(あざ)が、壮絶な戦いの痕跡(こんせき)を示している。

「ほぉ、そんなことがあったんかい。知らんかったわ」

 レヴィアはそっと俺の胸に手を当ててぶつぶつと何かをつぶやく。指先から温かな魔力が伝わってくる。

「え? 見てなかったんですか?」

「なに言っとる! あれだけの巨大な魔法陣をバレずに描くのはどれほど大変か、考えてもみろ!」

 レヴィアは不服そうに俺の胸をパァン! と叩いた。

「痛てて……って、痛くない……? あれ?」

 見れば内出血の跡は綺麗に消えていたのだ。傷があった場所に残るのは、かすかな温もりだけ。

「死んでなければ何度でも復活させてやるわ。カッカッカ!」

 金髪おかっぱの少女は楽しそうに笑う。その笑顔は、この世界の(ことわり)を司る者とは思えないほど(あい)らしいが、俺は今後も死にそうなことをやらされる予感に思わずブルっと震えた。


       ◇


 諏訪湖を見れはすっかりと干上がり、綺麗に丸くくりぬかれた窪地が広がっている――――。

「それにしてもレヴィア様の技には、驚かされました。何ですかこれ?」

 俺はため息をつきながらその生々しい戦いの爪痕を眺めた。

「『強制削除コマンド』じゃ。対象領域を一括削除するんじゃ。このコマンドで消せぬものはない。どうじゃ? すごいじゃろ?」

 ドヤ顔のレヴィア。両手を腰に当て、胸を張る姿は愛矯(あいきょう)たっぷりだ。

「『強制削除』……ですか? もっとカッコいい名前かと思ってました」

「え……?」

 レヴィアは一瞬固まると、

「……。いいんじゃ……。我はこれで気に入っとるんじゃ……」

 と、露骨にしょげた。

 さっきまでの威勢はどこへやら。レヴィアは露骨に肩を落とした。

 その世界最強でいてどこか抜けてる少女に思わず笑みがこぼれる。