アバドンによるとヌチ・ギの屋敷は王都の高級住宅地にあって小さなものらしい。しかし、今までに連れ込まれた女の子の数は何百人にものぼる。到底入りきらない。つまり、屋敷は単なる玄関にすぎず、本体はどこか別の空間にあると考えた方が自然だ。
その想像だけで、俺の背筋に冷たい汗が流れる。そんなところに忍び込む……、あまりの難易度の高さに考えるだけでクラクラしてしまった。
しかし、今この瞬間もドロシーは俺の助けを待っている。その思いが、俺の心を強く締め付けた――――。
『命がけで守る』と言い切ったのだ、たとえ死のうとも助けに行くことは決めている。その決意が、俺の中で炎となって燃え上がっていた。
幸い俺にはレヴィアからもらったバタフライナイフがある。これで壁をすり抜けて忍び込み、何とか屋敷本体へのアプローチの方法を探そう。ナイフを握る手に、わずかな希望の温もりを感じる。
忍び込んだら見つからないように、警備システムをかいくぐりながらドロシーの居場所を探し出し、秘かにドロシーを救出し、連れ出す。ただし、屋敷の内部構造は不明――――。
出来るのかそんなこと……。俺は無理筋の綱渡りの計画に胃が痛くなり、思わず頭を抱えた。
「旦那様、あきらめるんですか?」
アバドンは鋭い視線で俺を射抜く。その声には、俺を試すような響きがあった。
どう考えてもうまくいくとは思えない。成功確率なんて良くて数パーセント……。その現実が、重い鎖のように俺の心を縛る。
でも……、成功の可能性がほんの少しでもあるのならやるのだ。上手くいきそうかどうかなんてどうでもいい、成功のために全力を尽くす。ただ前だけ向いて突き進むのだ。俺は覚悟を決める。その瞬間、心の中に小さな光が灯った。
「いや、どんなに困難でも俺は行くよ」
俺は顔を上げ、決意と覚悟が宿る目でアバドンを見つめる。
「グフフフ、成功させましょう」
アバドンは諦観した笑顔を見せる。その笑顔にも、玉砕を覚悟した運命に立ち向かう者の決意が滲んでいた。
二人は互いに頷き合う。その瞬間、部屋の空気が変わる。絶望の中、かすかな希望を信じ、二人は新たな冒険への第一歩を踏み出そうとしていた。
◇
屋敷に侵入する手はずは詰められていったが、肝心の救出後が決まらなかった。
単に連れ出すだけならすぐに見つかって連れ戻されてしまう。その事実が、俺の心に重くのしかかる。相手は管理者なのだ。どこに隠れたって必ず見つかってしまうだろう。その絶望的な状況に、俺は頭を抱えた――――。
これを回避するにはどうやっても我々ではどうしようもない。もう一人の管理者、レヴィアに頼る以外考えられなかった。彼女にかくまってもらうこと、これも必須条件になる。しかし、レヴィアにはメリットがない以上、慎重な交渉が必要だった。
しばらく悩んだが、合理的にはとてもOKはもらえない。残された方法はもはや熱意で動かすしかない。無理筋を熱いハートで押し倒すのだ。
「レヴィア様、レヴィア様~!」
俺は早速レヴィアを呼ぶ。心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
返事を待つ間の一秒一秒が、永遠のように感じられた。
『なんじゃ、朝っぱらから……。我は朝が弱いのじゃ!』
レヴィアの声には、いつもの気だるさが混じっている。
「お休みのところ申し訳ありません。緊急事態なのです」
『なんじゃ? 何があったんじゃ? ふぁ~あ……』
「ドロシーがヌ、ヌチ・ギに攫われました」
俺はその言葉を口にする瞬間、胸に鋭い痛みを感じた。
『んんーーーーっ!? なんじゃと!?』
レヴィアの声には、驚きと戸惑いが満ちる。この世界で唯一意のままにならない相手、ヌチ・ギの名前にレヴィアはビビッドな反応を見せた。
その想像だけで、俺の背筋に冷たい汗が流れる。そんなところに忍び込む……、あまりの難易度の高さに考えるだけでクラクラしてしまった。
しかし、今この瞬間もドロシーは俺の助けを待っている。その思いが、俺の心を強く締め付けた――――。
『命がけで守る』と言い切ったのだ、たとえ死のうとも助けに行くことは決めている。その決意が、俺の中で炎となって燃え上がっていた。
幸い俺にはレヴィアからもらったバタフライナイフがある。これで壁をすり抜けて忍び込み、何とか屋敷本体へのアプローチの方法を探そう。ナイフを握る手に、わずかな希望の温もりを感じる。
忍び込んだら見つからないように、警備システムをかいくぐりながらドロシーの居場所を探し出し、秘かにドロシーを救出し、連れ出す。ただし、屋敷の内部構造は不明――――。
出来るのかそんなこと……。俺は無理筋の綱渡りの計画に胃が痛くなり、思わず頭を抱えた。
「旦那様、あきらめるんですか?」
アバドンは鋭い視線で俺を射抜く。その声には、俺を試すような響きがあった。
どう考えてもうまくいくとは思えない。成功確率なんて良くて数パーセント……。その現実が、重い鎖のように俺の心を縛る。
でも……、成功の可能性がほんの少しでもあるのならやるのだ。上手くいきそうかどうかなんてどうでもいい、成功のために全力を尽くす。ただ前だけ向いて突き進むのだ。俺は覚悟を決める。その瞬間、心の中に小さな光が灯った。
「いや、どんなに困難でも俺は行くよ」
俺は顔を上げ、決意と覚悟が宿る目でアバドンを見つめる。
「グフフフ、成功させましょう」
アバドンは諦観した笑顔を見せる。その笑顔にも、玉砕を覚悟した運命に立ち向かう者の決意が滲んでいた。
二人は互いに頷き合う。その瞬間、部屋の空気が変わる。絶望の中、かすかな希望を信じ、二人は新たな冒険への第一歩を踏み出そうとしていた。
◇
屋敷に侵入する手はずは詰められていったが、肝心の救出後が決まらなかった。
単に連れ出すだけならすぐに見つかって連れ戻されてしまう。その事実が、俺の心に重くのしかかる。相手は管理者なのだ。どこに隠れたって必ず見つかってしまうだろう。その絶望的な状況に、俺は頭を抱えた――――。
これを回避するにはどうやっても我々ではどうしようもない。もう一人の管理者、レヴィアに頼る以外考えられなかった。彼女にかくまってもらうこと、これも必須条件になる。しかし、レヴィアにはメリットがない以上、慎重な交渉が必要だった。
しばらく悩んだが、合理的にはとてもOKはもらえない。残された方法はもはや熱意で動かすしかない。無理筋を熱いハートで押し倒すのだ。
「レヴィア様、レヴィア様~!」
俺は早速レヴィアを呼ぶ。心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
返事を待つ間の一秒一秒が、永遠のように感じられた。
『なんじゃ、朝っぱらから……。我は朝が弱いのじゃ!』
レヴィアの声には、いつもの気だるさが混じっている。
「お休みのところ申し訳ありません。緊急事態なのです」
『なんじゃ? 何があったんじゃ? ふぁ~あ……』
「ドロシーがヌ、ヌチ・ギに攫われました」
俺はその言葉を口にする瞬間、胸に鋭い痛みを感じた。
『んんーーーーっ!? なんじゃと!?』
レヴィアの声には、驚きと戸惑いが満ちる。この世界で唯一意のままにならない相手、ヌチ・ギの名前にレヴィアはビビッドな反応を見せた。