写真記念

「っていうかお客さんだったんだ。写真好き?」
いつもの事ながら英生の切り替えは速い。
恐らく優花も速いのだろう、途端に表情が変わる。
「うん!見て、これめっちゃ綺麗に撮れたの!」
カメラを取り出しながら英生に言葉を返す優花は嬉しそうである。
丁度風に舞う桜に映えそうな明るい表情だ。
優花は柑那が思っていたよりずっと、写真を撮るのが上手だった。
風景写真だ。
柑那とは被写体が違うものの、凄さが解る。
丁度いい塩梅で光が差し、影を移しつつも暗くない。
思わず誰もが見入ってしまうような、そんな写真だ。
「へぇ、景色とかが好きなんだ。うちはね、建物とかナントカ細工とか。ほら、これとか良くない?」
そう言って差し出すカメラのモニターに写っているのはステンドグラスに前に飾られた寄木細工だ。
直近で一番上手く撮れた自慢の1枚である。
「いいじゃん。それこの頃撮ったんだ?俺もいいの撮れてさ。ほら、この辺。」
嬉しそうに覗き込んでいた英生が撮すのは復古調の物だ。
「わぁ、かわいい!レトロっていうの?写真集出せそう!」
そう言って優花はまた顔を輝かせる。
余程写真が好きなのだろう、彼女は目に映る全ての写真に喜んでいる。
「写真集か、出してみようかな。」
「あんまり調子に乗るなよ」
満更でも無さそうな英生には最初に釘を刺しておく。
そうでないと西園寺グループの子会社に留まらず取引先まで巻き込んだ大事業になってしまうのだ。
 ふと、父から声が掛かり、話を聞きに行く。
どうやらカメラの修理が速くも終わった様だ。
「どうしたの?」
紗月が何も言わずに席を立ったので不思議そうに優花が尋ねる。
「優花パパのカメラ、もう直ったっぽい。」
英生が目を見開く。
「えっ早くね?もう帰るの?」
楽しい時間は流れが早いものだ。
もう修理が終わっていてもおかしくない時間が過ぎていた。
少し寂しい空気を壊すように、優花の手を叩く音が響く。
「ねぇねぇこれさ、絶対何かの運命だと思うんだ!思い出に何か残さない?」
確かに、とても良い案だ。
それならもうお別れ、という気はしない。
「いいじゃん!何か交換する?」
英生も乗り気のようで、雰囲気は一気に明るくなる。
しかし交換となるとあまり思い出は鮮明に残らない気がする。
何か全員のお揃いに出来て、且つ今を思い出しやすい物。
そんな物は1つしかない。
「ねぇ、うちめちゃめちゃ良い事思い付いちゃった!」
一拍おいて、怪訝そうな二人の顔を見回す。
「うちら全員、写真好きじゃん?
 だったら、記念写真、撮ろうよ!!」
柑那の一言に、二人は目を輝かす。
「それだ!!めっちゃいい!撮ろう撮ろう、私のカメラで良い?」
決まりのようだ。
柑那は急いで裏に向かう。
「三脚、持ってきたよー!」
優花に三脚を渡し、慌ただしく撮影の準備をする。
「タイマー何秒?」
確かに、撮ってくれる人はいないのだ。
しかしタイマーをセットしたことはなく、妥当な時間がわからない。
「5秒で行ってみる?」
厳しいことを呑気に行ってのけるのはやはり英生だ。
「いやぁ流石に無理でしょ。いける?」
「一回やってみよう!」
まさか通ってしまうとは思わなかった。
「いっくよー、せーのっ!」
『5!4!3!2!1!』
躓きつつ、慌てて優花が滑り込んだ瞬間、シャッターが切られる。
緊張が解け、優花は大きく息をつき大声を出す。
「あっぶなかったぁ!撮れてるかな?」
「やっぱり無理だって、絶対ぶれてるもん」
やはり10秒くらいにするべきか。
「まさかのちゃんと撮れてる」
「うっそ、凄い!奇跡だよ!!」
今日は予想外の事が多いようだ。
ここまでギリギリでブレないわけがないのだが、英生の目は肥えている。ほんとうにブレていないのだろう。
しかしこうもゆっくりしては居られないのだ。
「あ、優花!早く行かないと、パパ待ってるよ!」
「あっ!そうだった!」
優花自身完全に忘れていたようだ。

慌ただしい3人のもとに、にこやかな優花の父ー常連客が急いだ様子もなく、ゆっくりした足取りで歩み寄る。
「良ければ、俺が撮ろうか?」
優花の父の意外な言葉に一同固まる様子は傍から見ればおかしなものだったのであろう、店主の豪快な笑い声が響く。
「はははっ撮って貰いな、こいつぁ凄腕だぞ!」
「じゃあお父さん、頼んで良い?」
優花の父はもう乗り気の様で、既にカメラを弄っている。
「じゃ、並ぼうか!」
「準備はいいかい?笑って!」
そうして再びシャッターは切られる。
今度は慌ただしさのない音で。
確かに優花の父は凄腕だった。
柑那たちの写真とは比べ物にならない、綺麗な写真だ。
店のプリンタを使い、写真を現像した。
各々1枚づつ持って、思い出の品とした。

「今日はありがとう!めっちゃ楽しかった!絶対また会おうねー!!」
「言質取ったからね!絶対だよ!またいつでもご来店ください!!ばいばい!」
「じゃあな!次あったらまた写真見せ合いっこしよう!」
「うん、ばいばい!次合う時までにもっと上手になっておくね!元気でねー!」
そんな口約束が果たされることはそうそうないと柑那は知っていた。
だが、この3人なら果たせる気がする。
そんな根拠の欠片もない、しかし大きな自身が、確かに胸のうちにあるのだ。
「行っちゃったね」
「な。」

優花と常連客を見送った後、紗月と英生の間には、少し寂しい様な、暖かいような気恥ずかしい様な雰囲気が漂っていた。

「それで、俺は何でここに来たんだっけ?」
そんな一言が雰囲気を変える。
すっかり忘れていたのだが、ここに英生を呼んだのは柑那なのだ。
「ああそっか、忘れてた。ちょっと上がって行ってよ。ママがさぁー」
またいつものように、この店には長閑な雰囲気が、柑那と英生の間には少し砕けた空気が戻っていた。