写真記念

 開店とともに小洒落た店内に響く聞き慣れた音が来客を告げる。
入ってきたのは常連客だ。
傍らにはあの少女が居た。
自然と紗月は何時にも増して晴れやかに、足取りは軽く、手際はよくなる。
「いらっしゃい〜」
ドアベルの音にいつも通りの声が響く。
店主もこのときだけは必ず手を止め、顔を上げるのだ。
「おお、久しぶり!」
嬉しそうな店主に常連客は困ったように笑う。
「久しぶり。カメラ、見てもらえるか?」
「おう、任せろ」
店主は、常連客を安心させるように、自信満々に頷く。
「すまんな嬢ちゃん。おっちゃんがパパのカメラすぐ直したるから待っててくれ」
少女は頷き、店主たちの世間話がを静かに聞いていた。
しかし暫くすると我慢できなくなったようで、店内のショーウィンドウや小物を見回し始めた。
大人たちの話題はいつも、どこが楽しいのかさっぱりで、そばの子どもは決まって暇になるのだ。
ふと、少女と視線がぶつかる。
勤務中だが話しかけていいだろうか。
話しかけたら友達になってくれるだろうか。
接客という体にしてしまおうか。
お客様に退屈をさせてはいけない。
きっと話す機会も今しかない。
意を決して当たり障りのない言葉を紡ぐ。
「ねぇ君、今待ち時間?」
話しかけるのには勇気がいる。
しかしこれ程だったか。
自分でも判るくらい上ずった声だった。
返答までの、張り詰めた短い時間が、永遠のように思えた。
「あ、うん。」
簡単な返事だ。
過ぎてみればあまり緊張するものでもないかも知れない。
とはいえ折角話しかけたのだから会話に繋げたい。
あわよくば友達になりたい。
なるべく自然にするに、店長にも許可を取ろう。
「パパ、この子と喋ってていい?」
しかし柑那の声はもう届かない。
店主は集中しきっていた。
「・・・ねぇ、ちょっと話し相手になってよ。」
上手く誘えただろうか。
素直に話したいと言ったほうが良かったのではないだろうか。
声に出してから不安になる。
柑那に、考えてから喋るなどという器用なことは出来ないのだ。
一言足そうか迷う頃には、少女の表情は一変していた。
「いいの?お父さん!私、この子と喋ってるね!」
どうやら柑那の杞憂だったようで、少女の声は高く、弾んでいた。