あの日から約2年が経った。
中学も卒業し、高校入試も受かって、入学式を迎えた。
優花の母は未だに母に会いに来る。
優花はあれからぱったり来なくなってしまった。
父は店主を辞め、柑那は正式にカメラ喫茶月宮の店主になっていた。
英生とはたまに電話をするが、優花に関連する話題はお互いに避けていた。
高校も違うし会うこともないだろう。
式を終え、教室の席に着いたところで見覚えのあるような面影を見つけた。
他でもない、優花だった。
全く集中出来ないままホームルームを終え、意を決して声を掛ける。
「ねぇ君、優花?」
「あ・・・はい。お久しぶりです、柑那ちゃん。」
優花はあまり目を合わせずに答える。
予想は出来ていた。
しかし本当にここまで変わっていると思うと切ない。
「久しぶり。今時間貰って良い?」
「あ、すみません。もう帰らないといけないので」
気不味そうにそう言うと、優花は教室を出ていった。
もう少し話せると思っていたのだが。
柑那を喧騒へ引き戻すようにチャイムが鳴る。
そろそろ平日の開店時間だ。
「帰るか。店、開けないと。」
柑那は気を紛らわすように呟き、鞄を肩に掛ける。
履き古したスニーカーを踵に引っ掛け家路に就く。
高校と店はすぐ近くだ。
表から入り、開店する。
「ただいま」
しかしここで柑那は動きを止める。
開店前に客が居たのだ。
何とも呑気な顔をした客だ。
「いらっしゃいませ」
「いやいやいや、は?なんであんたがここに居るの?え?い、いらっしゃいませ、おひさ?」
開店前の店に、呑気な客の笑い声が響く。
「すっげぇ混乱してんじゃん!」
失礼なものだ。
連絡なしに押しかけておいて笑うとは。
「そう言えばお前この店継いだんだって?」
「あー、うん。パパが鬱になっちゃって」
余程驚いたのか、呑気な客ー英生は音を上げて立ち上がる。
「え?!あの陽気なおっさんが?鬱って何があったんだよ」
空気が暗くなるのを覚悟し、柑那は続きを声に乗せる。
「中1のあの後優花のパパがトラックに引かれて亡くなったじゃん。優花パパ、うちのパパの親友でさ」
帰ってきた返事は簡単なものだった。
「そっか。」
暗い沈黙が支配するその空間で、柑那は物思に耽る。
現状に大きな不満はない。
店を切り盛りするのはそれなりに楽しいし、大好きなカメラに触れる時間を長く取れる。
店の収益の内訳も気に入っていた。
手取りのうち、1/2は生活費。1/4は柑那の銀行口座へ。
残りの1/4は柑那の財布へ。
よって柑那の経営が上手く行けば行く程生活は豊かになり、小遣いも増える。
いつしか母と同じ位に稼げるようになっていた。
収益が目に見えて上がり、この店に来た客が商店街に寄り道をして帰ることで商店街全体も潤ってきていることも大きなモチベーションになった。
しかし父に対する苛立ちは少なからずあり、柑那の中に2年程燻り続けている。
最初は仕方がないと受け入れていたが、父は親だ。
自分勝手が過ぎるのではないだろうか。
確かに親友が亡くなれば柑那だって仕事などしていられないだろう。
しかし子どもが居れば、子どもの生活にも支障を来すと言うなら話は別ではないだろうか。
長くても1年程休んで、仕事を再開するのが妥当ではないだろうか。
柑那は親友を亡くしたことはないのでその苦しみは知らないが、親友という存在を失ったことはある。
それを踏まえ、子どもに働かせ、その収益に頼っているのには不満が募る。
何より一番辛いのは優花の母と兄弟、優花自身だ。
不幸な事故の遺族ではなく自分だけが地獄のどん底に居るような顔をしている父に腹が立っていた。
「なぁ」
にわかに掛けられた声に、柑那の意識が浮上する。
「そこにあるのって、あいつのカメラだよな?」
英生の視線の先には2年前と変わらずカメラ2つ置いてあった。
「そう。よくわかったね。」
「どうしたんだ?あれ」
英生には話していなかったのだ。
きっと優花の話題を意識して避けていたから。
「売ってくれって頼まれてさ。」
「じゃあさ、俺に売ってよ」
「嫌だ。売るわけないじゃん」
間髪いれずに断る。
「何で?」
「じゃあ逆になんで親友から預かった物を売らなきゃいけないの?」
英生は生粋の阿呆だが、賢い。
これだけで理解してくれたようだ。
「じゃあさ、俺がちょっと借りるってのは?お前らが親友なら俺も親友に入るだろ?」
「どうせ本人に返すつもりなんでしょ。」
そう言いながら英生にカメラを2台、ケースに仕舞って渡す。
「あざす」
「どうやって渡すんだか。」
何より英生は学校が違うのだ。
当の英生は余裕そうだ。
「それは帰ってから考える。」
何も考えていないのにそこまで自信満々な顔になる原理を解明する学者にでもなってみたい。
「じゃあな」
気が済んだ様で、英生は店の出口に向かっていく。
「ばいばい」
こちらの学校に乗り込んで来るようなことがないことを切に願おう。
そんな柑那の心配は、開店後の接客の忙しさに掠れ、消えていった。
中学も卒業し、高校入試も受かって、入学式を迎えた。
優花の母は未だに母に会いに来る。
優花はあれからぱったり来なくなってしまった。
父は店主を辞め、柑那は正式にカメラ喫茶月宮の店主になっていた。
英生とはたまに電話をするが、優花に関連する話題はお互いに避けていた。
高校も違うし会うこともないだろう。
式を終え、教室の席に着いたところで見覚えのあるような面影を見つけた。
他でもない、優花だった。
全く集中出来ないままホームルームを終え、意を決して声を掛ける。
「ねぇ君、優花?」
「あ・・・はい。お久しぶりです、柑那ちゃん。」
優花はあまり目を合わせずに答える。
予想は出来ていた。
しかし本当にここまで変わっていると思うと切ない。
「久しぶり。今時間貰って良い?」
「あ、すみません。もう帰らないといけないので」
気不味そうにそう言うと、優花は教室を出ていった。
もう少し話せると思っていたのだが。
柑那を喧騒へ引き戻すようにチャイムが鳴る。
そろそろ平日の開店時間だ。
「帰るか。店、開けないと。」
柑那は気を紛らわすように呟き、鞄を肩に掛ける。
履き古したスニーカーを踵に引っ掛け家路に就く。
高校と店はすぐ近くだ。
表から入り、開店する。
「ただいま」
しかしここで柑那は動きを止める。
開店前に客が居たのだ。
何とも呑気な顔をした客だ。
「いらっしゃいませ」
「いやいやいや、は?なんであんたがここに居るの?え?い、いらっしゃいませ、おひさ?」
開店前の店に、呑気な客の笑い声が響く。
「すっげぇ混乱してんじゃん!」
失礼なものだ。
連絡なしに押しかけておいて笑うとは。
「そう言えばお前この店継いだんだって?」
「あー、うん。パパが鬱になっちゃって」
余程驚いたのか、呑気な客ー英生は音を上げて立ち上がる。
「え?!あの陽気なおっさんが?鬱って何があったんだよ」
空気が暗くなるのを覚悟し、柑那は続きを声に乗せる。
「中1のあの後優花のパパがトラックに引かれて亡くなったじゃん。優花パパ、うちのパパの親友でさ」
帰ってきた返事は簡単なものだった。
「そっか。」
暗い沈黙が支配するその空間で、柑那は物思に耽る。
現状に大きな不満はない。
店を切り盛りするのはそれなりに楽しいし、大好きなカメラに触れる時間を長く取れる。
店の収益の内訳も気に入っていた。
手取りのうち、1/2は生活費。1/4は柑那の銀行口座へ。
残りの1/4は柑那の財布へ。
よって柑那の経営が上手く行けば行く程生活は豊かになり、小遣いも増える。
いつしか母と同じ位に稼げるようになっていた。
収益が目に見えて上がり、この店に来た客が商店街に寄り道をして帰ることで商店街全体も潤ってきていることも大きなモチベーションになった。
しかし父に対する苛立ちは少なからずあり、柑那の中に2年程燻り続けている。
最初は仕方がないと受け入れていたが、父は親だ。
自分勝手が過ぎるのではないだろうか。
確かに親友が亡くなれば柑那だって仕事などしていられないだろう。
しかし子どもが居れば、子どもの生活にも支障を来すと言うなら話は別ではないだろうか。
長くても1年程休んで、仕事を再開するのが妥当ではないだろうか。
柑那は親友を亡くしたことはないのでその苦しみは知らないが、親友という存在を失ったことはある。
それを踏まえ、子どもに働かせ、その収益に頼っているのには不満が募る。
何より一番辛いのは優花の母と兄弟、優花自身だ。
不幸な事故の遺族ではなく自分だけが地獄のどん底に居るような顔をしている父に腹が立っていた。
「なぁ」
にわかに掛けられた声に、柑那の意識が浮上する。
「そこにあるのって、あいつのカメラだよな?」
英生の視線の先には2年前と変わらずカメラ2つ置いてあった。
「そう。よくわかったね。」
「どうしたんだ?あれ」
英生には話していなかったのだ。
きっと優花の話題を意識して避けていたから。
「売ってくれって頼まれてさ。」
「じゃあさ、俺に売ってよ」
「嫌だ。売るわけないじゃん」
間髪いれずに断る。
「何で?」
「じゃあ逆になんで親友から預かった物を売らなきゃいけないの?」
英生は生粋の阿呆だが、賢い。
これだけで理解してくれたようだ。
「じゃあさ、俺がちょっと借りるってのは?お前らが親友なら俺も親友に入るだろ?」
「どうせ本人に返すつもりなんでしょ。」
そう言いながら英生にカメラを2台、ケースに仕舞って渡す。
「あざす」
「どうやって渡すんだか。」
何より英生は学校が違うのだ。
当の英生は余裕そうだ。
「それは帰ってから考える。」
何も考えていないのにそこまで自信満々な顔になる原理を解明する学者にでもなってみたい。
「じゃあな」
気が済んだ様で、英生は店の出口に向かっていく。
「ばいばい」
こちらの学校に乗り込んで来るようなことがないことを切に願おう。
そんな柑那の心配は、開店後の接客の忙しさに掠れ、消えていった。
