時代の移ろいと少しの衰えを感じさせるありふれた商店街があった。
その一角に、風変わりな小さな店が開かれた。
それを合図とするかのように、変わらず営まれる日常の中に、1つの物語が幕を開ける。

少女は床の掃き掃除をしていた。
父の店を開く時間が迫っている。
今日はどんなお客がくるだろうか。
あの女の子はくるだろうか。
ただの小遣い稼ぎでも、なぜか気分は弾む。
それはきっと、大好きなカメラに囲まれて、いろんな人に出会うことができるからだ。
お小遣いをもらったら、何を買おう。
写真の額縁でも買おうか。

少女は写真が好きだった。
母に貰ったカメラが、自分の思うままに撮った写真が好きだった。
心から純粋に、本当に大好きだった。
休日の静かな家。普通に見えた幸せな家族は、少女にとってはほんの少し歪だった。
扉と鈴がぶつかる音を合図に、少女の一日は始まる。

カメラ喫茶月宮。
この店は一組の父娘が切り盛りしていた。