お盆休みが終わると兄貴は下宿先へと戻って行った。次の帰省はいつかと何度も聞く母さんに対し、一切のリップサービスなく冬じゃない? と冷静に答え、俺には、まぁ勉強頑張れよと遠慮のないデコピンを喰らわしてきただけだった。

 自分のベッドで寝そべりながら、俺は兄貴と過ごしたここ一週間について考えていた。

 もともとべったりした兄弟ではなかったし、こんなもんだとは思うけれど、これまでとは確実に何か違った。それはやっぱり凪に対してだ。

 俺も口にはしなかった。けれど、兄貴がこの滞在中に凪という単語を発しなかったのは違和感しかない。

 兄貴は何をするにしても凪の行動を気にしていた。その兄貴がどうしてこうなった? 今までは同じ高校に通う同級生だったから、自然とそうなっていたとか? 今は個人的に連絡し合えるし、あえて俺や母さんの前では余計なことを発言しないようにしてるってこと?

 考えれば考えるほど、兄貴と凪が繋がっているように思えて仕方がない。

 気持ちがざわついていてもたってもいられなくなった。身体を起こし、窓際へ吸い寄せられるように進む。

 なぁ、凪、今どうしてる? まだそこにいる? それとももう下宿先に戻った?

 凪の部屋に視線を投げかけたけれど、相変わらず窓は閉め切られたままだ。

 もし凪が兄貴の彼女だったら、俺はどうすればいい?

 どんなに問いかけても、その答えは返ってこない。窓に背を向けその場にへたり込むと、頭を抱え込んだ。

 本音は兄貴となんか付き合ってほしくない。

「凪に会いたい……」

 凪の家を肩越しに見た。


 遠野凪は四つ年上の幼馴染で、兄貴の想い人。でも、そんなのは俺の知ったことじゃない。ただ、凪は俺が一番顔を見たい人。