「いいよ、そんなの。自分でやるし」

「そうだよ、母さん。紺は自分でどうにかするタイプでしょ」

「そう? お兄ちゃんがそう言うなら」

 母さんが肩をすくめる。俺に一切目をくれることもなく。そして罰が悪くなったのか、徐に立ち上がるとキッチンへ向かって行った。

「俺に教えて欲しいか?」

 ちらちらと母さんの挙動を気にしながら、兄貴が声を潜めて尋ねてきた。

「いらね」

 俺の返答に兄貴が白い歯を見せた。

「だよな。まぁ、俺も教える気は全くないけどな」

「気が合うね、俺たち」

「合い過ぎて面倒だ」

 兄貴が頬杖をつくと、そのまま手をおでこにスライドさせて髪をかき上げた。

「どういう意味?」

「そのまんまの意味だよ」

 冗談とも本気とも区別のつかないトーンで兄貴が視線をこっちに寄越した。

「訳分かんね」

 兄貴の意図していることに気がつかないふりをして、適当な相槌を返した。兄貴は何も言わなかったけれど、鋭い眼光は俺に向けられたままだった。