途端に心臓が跳ね上がる。

 え、何て打てばいい?

 数学のことはとりあえず後回しにして、スマホを手にした。


———手紙受け取った。ありがとう。———

 これじゃ冷たいよな。

———手紙ありがとう。凪は俺にとって大事な幼馴染だよ———

なんか格好つけてるような。

———また河川敷行こう。昼間に。手紙大事にする。———

 ベストかはわからないけど、一番自分の言葉っぽい。これ以上悩んだら返信できなくなりそうで、勢いに任せて送信ボタンを押した。既読がすぐについて、電話がかかってきた。

———もしもし。

———もしもし、紺?

———うん。

———あのね、いろいろありがとう。それだけ。

 返事をしようとしたら、ぶちっと通話が切られた。

 なんだよ、一方的な。

 そう思いながらも、凪の声が割と普通だったことに安心している自分がいる。スマホが手の中で震えた。

 凪から『これからもよろしくお願いしマッスル』と訴える筋肉ムキムキの男のスタンプが届いていた。つい吹き出してしまう。

 凪にはやっぱり敵わない。頭に凪の姿を思い浮かべた。天使が現れたかと思った河川敷の出会いから八年間の中で増えていった凪の記憶。どんな姿だって、俺にとっては大切で、愛おしい。だから今日は、ずっと気がついていたけど敢えて深追いしなかった気持ちを認める。