翌日、学校から帰宅すると、机の上に手紙が置かれていた。

『紺へ』と書かれた文字で凪からだと分かる。鞄をベッドに放り投げると、手紙の封を開けた。


 紺へ

 昨夜は迷惑をかけてごめんなさい。ずっと黙っていたけれど、私は去年の半ばから体調のすっきりしない日が続いていました。だけど、それは受験勉強による寝不足やストレスのせいだと考えていました。けれど、四月に入って新生活が始まっても体調は改善しませんでした。それなのに、ここでも私は一人暮らしが始まったばかりだからとか、適当な理由をつけてやり過ごしてしまいました。だけど復調の兆しがないので、夏休みに入ったら家に戻ろうと決めて、この一ヶ月近くを過ごしました。結果、今も私の体調はいまひとつなままです。
 何度か病院にも行きましたが、原因は不明で精神的なものという診断が下されるだけでした。夏休みの半分が過ぎ、今後も原因不明の不調と付き合っていかなくてはならないのかと不安を覚えていたら、視界に異変を感じました。
 鏡を見たら、片方の目が垂れ下がっていました。今までも目に違和感を覚えたことはあったのですが、昨日ほど垂れ下がっていたのは初めてでした。絶望を感じ、私は家を飛び出しました。足に迷いはなく、気がつけば紺がよく過ごしている河川敷へと向かっていました。それが昨夜のことです。自分でも馬鹿なことをしたと反省しています。夜に河川敷に一人で行くなんて。川に飛び込もうとしていたとかそいうわけじゃないんだけど、なぜかあの場所に無性に行きたくなったんです。
改めてになるけれど、紺とおじさんには迷惑をかけてしまって申し訳なく思っています。ごめんね。
 ただ、昨夜のおかげで……というのは語弊があるけれど、紺のおじさんのおかげで私の体調不良の原因が掴めるかもしれません。今後はおじさんのいる病院で検査する予定です。 
もし、私の症状に病名がついたらまた伝えさせてね。
自分の口から直接説明したかったんだけど、紺の顔を見たら上手く話せる自信がなくて手紙にさせてもらいました。IINEで送ることも考えたけど、さすがに長文すぎるからやめました。大学は体調が落ち着くまで休学することになると思います。三月には盛大に送り出してもらったのに、たった数ヶ月で戻ってきちゃいました。またお隣同士よろしくお願いします。
 受験勉強大変だと思うけど、無理をせず頑張ってね。だけど正直に言うと、紺のことはあんまり心配していません。紺は自分で輝ける場所を作れる人だから。
 紺、昨日は私に気がついてくれてありがとう。お岩さんみたいな私に逃げ出さずにいてくれてありがとう。ありがとうだけは直接言いたいから、また会えたときに言わせてね。
 本当に本当にありがとう。何度言っても足りないくらい。
 本当にありがとう。 凪より