シャワーを済ませたあと、俺はスマホで父さんが呟いた言葉を調べることにした。父さんは凪を隣に連れて行ったきり、まだ帰ってきていない。

『MG 病気』と検索窓に打ち込む。

 myasthenia gravis:重症筋無力症

 聞いたこともない病名が一瞬で表示される。

 重症筋無力症? なんだそれ。

 書いてある内容は、日本語なのに全く意味が分からない。ただ、自己免疫疾患の一つで、筋力が低下する病気というのは分かった。それと気になったのは、午前中よりも午後の方が症状は現れやすく、疲れの度合いと症状の程度は比例するとのこと。怠け病とか仮病ではないかと誤解されてしまうこともあり、診断がついてない場合もあるらしい。瞼が垂れ下がる、だるいというのも症状の特徴のようだ。

 調べれば調べるほど、凪の不調の原因のように思える。

 部屋の扉がノックされた。父さんかと期待して、勢いよく開けたら母さんだった。

「母さんか……」

「やあね、期待ハズレみたいに」

「そういうわけじゃないけど、何?」

「明日から学校よ。もうさすがに寝なさい。学校の用意はしてあるんでしょうね」

「学校の用意?? あー今からします」

「本当にあなたは……」

「……あのさ、父さんは? 戻ってきた?」

「まだよ。とにかく早くやることをやって寝なさいよ」

「はい。じゃあ、そのおやすみ」

 母さんの足音が遠ざかるのを聞きながら、俺は窓際に近づいた。凪の部屋は暗いままだ。

 ということは、父さんたちとまだ話し合ってる?

 壁の時計は二十三時過ぎを指している。父さんから凪のことについて話を聞きたかったけど、今夜は難しそうだ。

 さて、明日の学校の用意をしますか。

 床に一ヶ月以上放置されたままの通学鞄を拾い上げた。中から夏休み明けに持ってくるものが書かれている手紙を引っ張り出した。
 咄嗟に目についた六文字の単語に立ちくらみを覚えた。

『ぞうきん二枚』

 今から母さんに言うか、明日先生に忘れたと言うか。

 頭の中に選択肢が二つ浮かぶ。俺は一切の迷いなく後者を選んだ。