「凪!」

 階段の途中にいた凪がくるりと振り返る。

「……紺?」

 俺は凪の元に駆け寄った。

 なのに……。

「やだ、やだ! 来ないで!!」

凪は、俺を避けるように階段を駆け降りていく。まるで俺と鬼ごっこをしているみたいに。真っ暗な河川敷に凪を行かせるわけにはいかなくて、俺は猛ダッシュして凪の腕を掴んだ。

「離して! 離して! お願いだから」

 本当に鬼に見つかった子みたいに凪が駄々をこねた。こんな凪を見たことはなくて面食らってしまう。状況が掴めなくて怯んだ隙に、凪が俺の手を振り解いて河川敷へ走り出していく。

「凪!」

「きゃっ」

 凪が小さな悲鳴をあげた。見れば、凪の周りをいかにも不良と分かる三人の男たちが取り囲んでいる。一人は凪が逃げられないように両腕を掴んでいた。男たちは全員髪色が違って、信号機のようだった。

「あーらら、お姉さんたち痴話喧嘩ぁ?」

 凪に触れている金髪の男が、にやにやと笑いながら俺に嫌な視線を向けてきた。凪から手を離せよと、本当ならドラマのヒーローよろしく凪を助けたかったのに、俺の足はただの棒と化した。へたり込まなかっただけマシかもしれないが、この場に立っているのが精一杯だった。

「彼氏のことは放っておいて、俺らと遊ぼうよ」

 赤髪の男が凪に近づいていく。

「可愛い感じじゃん、どんな顔してんのー?」

 緑色の頭の男が、俯いている凪の顔をくいと上に向けた。

「うわっ、お化け!」

「お岩じゃん!」

「なんだ、ハズレかよ。行こうぜ」

 凪が一体どんな顔をしていたのか俺からは見えなかった。

「彼氏さーん、彼女返すわ! せいぜい仲良くしなよー」

 三人は俺たちを嘲笑うと、河川敷の闇の中に消えて行った。